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「なあ、この間さ」
「ん?」
考え込んでると、高瀬さんが何やら小さな声で話し始める。さすがにまわりが酔っ払いだらけとは言え邪魔になるので歩き出しながら。
「お前のとこ行ったし、今日はこっち来いよ」
「へ? こっち?」
「ん、俺の家」
さりげなく言われたもんだから、はいもちろん!とかお花畑な私が答えそうになるけど。
いや待って、そんなわけにはいかないよ。
「高瀬さん、仕事ちゃんとしなきゃって今話してたとこですよ」
「は?なんだよ、仕事の話じゃねーだろ今は」
「そうゆうことじゃなくて、今日は月曜です!」
歩きながらキッと睨みつけると、高瀬さんは眉をひそめて私を見下ろす。
「だから何だ」
「今日は帰ってよく寝ます! 事務ってね、高瀬さん達と違ってパソコンと睨めっこ座りっぱなしなんですよ?すぐ眠くなるんですよ」
「……まあ、そー言われりゃそうだな、俺には無理だ」
不服そうに、とりあえず頷く高瀬さん。
「今日は帰りますけど週末は、その……またゆっくり、一緒にいましょうね?」
繋いだ手に力を込め直して、私は精一杯可愛く言ったつもりで、笑う。
すると、高瀬さんはわざとらしく大きなため息を吐いて観念したような声で言った。
「お前、その見上げてくんのマジでやめろ。 前も思ったけど勝てる気がしねぇわ」
「はい?」
「……今度は帰るなって言っても効果なさそうだな」
よくわからないけど、可愛く映ったかは謎として効果は何かしらあったらしい。
と、いうか!
「は、恥ずかしいことを思い出さないでくださいよ!」
この前の週末の出来事を言葉にされると、さすがにまだ恥ずかしい。
顔が熱くなってくのがわかって私は俯く。
「何照れてんだよ」
「まだ恥ずかしいんですもん」
高瀬さんが立ち止まる。
いつのまにか駅前のタクシー乗り場のロータリーまで辿り着いていて。
終電ギリギリの駅は急ぐ人や、諦めてタクシーに乗り込む人。
見渡せばそれなりに人がいる。
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