嫌いなのは自分

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それは自分の、この性格が、言葉が、全てが悠介を遠ざけてしまったと悔やんでいた私を掬い上げるには十分すぎる言葉だった。 ……嬉しかったんだと思う。 ため息つきながら出社すると、机の上にはどっさりと注文書、 いつも通りの月曜日、 隣には、いつも通りの高瀬さん。 「……酷い顔だな、おい」 呆れた顔が私を凝視する。 「開口一番それですか」 「……いや、まあいい」 途中でぶった切って視線をそらされる。 気にするまでもなく、いつも通りだし言うならいつもより態度悪い。 「今日は何かありますか」 「ああ、その右に避けてる注文書。 今工場に問い合わせてるから返事来たら、向こうが言ってきた納期で発注かけて」 「わかりました」 ――あとは、と。 指示を出す姿を眺める。 今みたいに大真面目に仕事してる時とか、この前の帰りとか。 いつもそんな感じなら、いいのに。 …………いいのに。 って、何がだ。 首を振って邪念を排除する。 気持ちが弱ってるとダメだ、おかしなことを考える。 「……い、聞いてんのか石川」 「はい!!!!」 「ボーッとしてんなよ。 無理なら無理で帰れ。 自分の体調も管理できないなら仕事出てくんな」 イラっと、くる言い方。 正論すぎて余計に腹が立つ。 「すみません、寝ぼけてました。 指示は聞いてます」 できるだけ丁寧に返すと、ぶはっ! と吹き出した高瀬さん。 目の前の表情が緩んだ。 「んな、睨みながら言うセリフかよ」 「睨んでましたか」 「かなりな」 「すいません、隠すの苦手すぎて」 私の悶々とした週末って何だったんだろう。ってくらい、いつも通り。 (ああ、そっか……) 考えてみれば、あんな風にナチュラルに女の人とベタベタしてた人なんだし高瀬さんにとっては大した記憶に残らない時間だったのかもしれない。 そう考えるとストン、と納得してしまい、そしてチクリとたいして大きくない胸が押しつぶされてしまったような妙な痛みを感じる。 「じゃあ、出るから後よろしくな」 「あ、はい」 高瀬さんの声で意識が引き戻され、目の前でネクタイを締め直す姿を眺める。 「今日直帰の予定だから面倒な注文書は流れてこないようにしてる、と思う。 だからたまにはお前も早く帰れ」 「え、は、はい」
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