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「ちょっと、お母さん!しつこいよ!」
会社のビルを出てすぐに、何件も残る着信履歴の相手――お母さんに電話をかけた。
いつもだったら、暇な時間に抜け出して掛け直したりもするんだけど……。
今日はさすがに、無理だったから。
風が、ひゅっと吹いて思わず身を縮める。
昼間はまだそうでもないけど、日が沈むとさすがに寒い。
『しつこいじゃないよ、あんた全然電話でないから』
私に似て、違うか。
私が似てしまって共に声が大きいお母さん。
キンキンと耳に響く。
「仕事中!でしょ、時間どう考えても!」
『今日の話じゃないよ、週末もかけたんだけどね!』
週末、そういえば何度か着信無視したっけ。
事実なので、とりあえずの謝罪をする。
「ああ、なんかバタバタしてて、ゴメン」
『ふーん、まあいいわよ。それよりね美咲!結婚するって!』
「え、マジで!?」
突如明るくなった、お母さんの声。
私は驚きを返すことしかできない。
――美咲は、みっつ下の妹で23歳だ。
「は、早いね。最近彼氏変わったばっかとか言ってたのに」
『早いね、じゃないよ。あんたはどうなってんの?悠介くんとそんな話は出てないの? お母さん、いい加減心配になってきたわ』
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