一緒にその先を描こう①

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最後の数字に触れて、数度コール音。 そして、甘い声。 『お疲れ、石川ちゃん』 「秋田、さん……」 『うん』 「秋田さんの愛し方ってなんですか?」 甘い声と対照的に私は何故か攻め立てるように早口で、聞いた。 「今すぐに、会いたいって泣いてる女を、甘やかすことですか?」 返事を待たずに、また聞いて。 『泣いてるの?』 甘すぎる声は、毒かな。 それでも、縋り付きたくなる。 そんな自分の弱さを嘆いたり責めたり。 私、今そんな強さを持てない。 「今から泣きます」 『ははは、それは大変だね。じゃあ、会いに行こうかな。ちょうど客先出たところだしね』 全部全部思うようにいかない。 ほら、やっぱ。 昔から何も変わらないままだ。 いつも私の隣で幸せそうなあの子と、いつも隣でそれを羨んで目をそらす、私。 騒めく心に蓋をした。
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