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「た、高瀬さん、あの」
「あー、悪ぃ、ちょい待ってくれ」
助手席に座り、深呼吸をして。
発した声を遮られてしまった。
「……走りながら話す、一個ずつな」
低く小さな声で言って、高瀬さんはシートベルトに手を伸ばす。
私も同じようにシートベルトをカチッと締めて。
そして、恐る恐る隣を見た。
すると、タバコを取り出し咥えた高瀬さんと目が合って。
「あ」と、短く声を発しタバコを箱に戻してしまったから。
(き、気を使われるなんて今は立場的に無理すぎる……!)
そんな感じで私は慌てて口を開く。
「え?あ、あの吸って下さいね……!?」
「いや、吸わねぇ奴の前云々より営業車禁煙だったわ……」
「何動揺してんだか」と、高瀬さんは小さく呟いてからエンジンをかける。
その動作を眺めて、思う。
(いやいやいや、すると思う)
私が高瀬さんの立場なら、めちゃくちゃ気にすると思いますよ。
例えばそこそこ近い――間宮香織とか、その辺の女と高瀬さんが2人で会って。
それを、私は間宮香織に聞かされるって。
逆だと、そういう状況ってことでしょ?
間違いなく、こんな穏やかに並んで座ってないと思う。
(……最低すぎる、私)
ゆっくりと動き出す駐車場の景色と、目が合わない高瀬さんと。
何とも言えない空気の中、湧き上がって止まらない罪悪感。
そうして車が動き出して数分のこと。
「んじゃ、まず、美咲って誰だ?家族?」
大通りに出て、スムーズに車が走行し出してから高瀬さんが言った。
「……あ、えっと。い、妹です」
「妹か。んで?それが何だって?」
「け……結婚、するんです」
「へえ、めでたいな。つーかそれで何で親がうるさい?」
走行音に消されてしまいそうなほど穏やかな声。
間違いなく、さっきまで秋田さんと一緒にいたこと。
そして、どんなつもりで、一緒にいたかも。
全部わかってるんだろうに怒りなんて感じない声。
その上、この流れは間違いなく。
(さっきの私の謎の喚きをひとつずつ聞いてくれてるんだ)
高瀬さんからしたら、他の男と一緒にいた自分の彼女が意味不明なこと喚いて抱きついてきて……
そして、そのまま、今、のハズなのに。
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