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「全部把握しときてぇんだよ、お前のこと」
唸った後に、絞り出すよう、聞こえた声。
その声に私の心臓は驚くほどに跳ね上がった。
「……え、っと」
「秋田さんと、いや、限らず。何話して……とか、何考えてとか。そーゆうの、なんつーか全部」
歯切れの悪い言葉。
脳裏には、気まずかった、少し前の電車での帰り道とか。浮かんでくるものがあって。
私の中でモヤモヤと浮かんでは消えるものがあったように、あったんだ。
高瀬さんにもあったんだ。
「大丈夫なんだ……」
「え?」
ポツリと、溢れた私の声に。
次は高瀬さんが反応を見せる。
「モヤモヤしてても、大丈夫なんだ。た、高瀬さんも一緒なんだ」
「何が?」
「釣り合ってないなぁとか、なのに、高瀬さんのいるずっと先の未来を実は願ってる自分とか。もう、私自分の脳内が意味わからなくて」
じわりと、目が熱くなる。
嫌だ、今泣くなんてズルいのに。
ズルいのに、ズルい私だって私なんだ、わかってよって。
心の奥の方で聞こえる声を、無視できない。
いっぱい溜まった涙が、流れずに何とか止まってくれてるけど。
そこに、高瀬さんの指が触れる。
優しく優しく、触れてくれる。
すると、誘われるように大粒の涙が零れ落ちた。
「や、ヤキモチとか奇跡じゃないですか。嬉しくてお花畑案件じゃないですか」
「嬉しいのかよ」
「好きな人の、そ、そんなの。嬉しくない訳ないし」
「言ったな、お前。言質とったぞ」
「ちょっと!怖いです怖い」
笑う私に、ニヤリと悪そうに笑った、高瀬さん。
その指は、また優しく熱く私の頬を撫でる。
そして小さく息を吸い込んだ後、高瀬さんが発した声は暖かさをまとっていた。
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