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糸目の笑顔を貼り付けたまま聞かれる。見てないようで見ている男に、付き合いは長くなろうともいまだ視線を合わせられたくない時がある。
「別に」
「そんなわけないだろ。だってお前月末くらいはいつも我慢してるじゃないか。大好きな石川さんに構って欲しくても」
(本気で機嫌悪いなこいつ)
俺を心配して、なんて。生温いこと言わないだろ。女に振り回されてそうな俺を、タバコふかしてる最中の暇つぶしにでもするつもりか。
それでも、聞いてみるかと口にする。
切羽詰ってるらしいのがまたムカつくもんだ。
「お前さ別れた女に会いたくなる時って、あるか」
「ぶ!」
缶コーヒーを口元にあてていた奥田が吹いた。
「あ? やめろよ、汚ねぇな」
「え、何? 思ったより楽しい話だった。 会いたい女でもいるの? 石川さんに伝えてきてもいい?」
めちゃくちゃ乗り出してきやがる。
(やっぱ、こいつなんか知らねーけど俺で憂さ晴らししようとしてやがったな)
糸目が開いた。
切れ長の鋭い瞳がやけに楽しそうに大きく瞬かれて。
「言うな、俺じゃねーよ。 向こうの男」
「ああ、なんだ。 石川さんの元カレか」
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