番外編

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翌日土曜日。 今月は社内カレンダー的に、どこかで一度土曜に出れば出勤日数はクリアだ。そして、俺はもうすでに出勤している。先週だ。 な、もんだから。 『もー、来なくていいですってば! 別に月曜で間に合う仕事ばっかなら休んでて下さい!』 明日は出勤だから帰りたいと言う石川を半ば無理やり家に連れ帰り、一緒に過ごした翌朝の言葉。 (いや、別に正論だし、それに文句はねぇけど) ここ何日か、どうにも様子がおかしい……と思う。なんて奥田にでも言おうもんなら『気にしすぎだって、いくら大好きな石川さんのことだからって』とか。それはそれは楽しそうにほくそ笑んでる顔が頭に浮かぶから、死んでも言わねぇ。 (妙にピリピリしてるっつーか、まあ月末はいつもそうだとしても度合いが) いつもと何かが違うと、記憶の限り探そうとしてしまうのは、もちろん“原因“だ。 昼下がりの1人の部屋で、別に誰に文句を言われるわけでもないのに、わざわざ換気扇の下でタバコに火をつけて。 思い浮かんだものに、苛立って深く煙を吸い込んだ。 (……なわけ、ねぇーだろ) 昔から。別に疲れてるわけでもないのに、吸っても吸ってもタバコがうまくて仕方ない時って、決まって何かに焦ってる時だ。 続けざまに3本目のタバコに手を出しそうなり、舌打ちでその衝動を抑える。 前に苛立って吸いまくった後の、灰皿を見た時の、あいつの怒りっぷりは。 ……そりゃ恐ろしいもんだったから。 まあ、これはいつもの惚れたもん負けだ。そんなもんはもういい、いつまでだって負けといてやる。
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