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そうやって、昔を思い返していたのが、アホだったとは思う。「無理っすね」と答えながら、また別の方向から視線を感じて視線を向けると。
仁王立ち……とまでは、いかないが。結構な圧の睨みをかけて立つ女が目に入る。
石川だ。
「……げ、お前タイミング悪ぃわ、いつも」
「へーー、それはそれは、どうもごめんなさい、お楽しみ中に!」
誰?と、隣にいる2人組がこそこそと話しながら俺を見上げて。んで、どさくさに紛れて化粧濃い方の女に、腕をギュッと掴まれる。その手の動きを石川が目で追って眺めてるわけだ。
いや、誰か知らんが空気読めよ、読んでくれ。
払い除けたい勢いだが、同じビルで働いてると言われた手前それも難しい。恐らく好意を向けられてるわけだから、何かの火種になりそうなもんは極力避けておきたいと思ったからだ。
「すいません、離してもらえます? 彼女来たんで」
石川の方を見ながら伝える。
「え!?あ、か、彼女!? いたんですね、そっかそうですよね」
女はパッと俺の腕から手を離した。
慌てる2人組と、もちろん俺を。そりゃ恐ろしい目で睨みつけて、そのまま無言を貫き、くるっと踵を返した。
カツカツとヒールの音を響かせ歩き始める。
「あ、おい、こら待て!楽しんでねぇし、車そっちじゃねーって!」
灰皿にタバコを押し付けて追いかけ、石川の腕を掴む。
それから振り返って。
「すいません、じゃあ、また。ビルで会うことあったら」
一応会釈して、適当な社交辞令と笑顔でその場を終わらせる。
そうして、石川を半ば引きずりながら車に戻った。
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