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小銭で済んでラッキーだな、とパーキングの精算を済ませて車に戻ると。
口を尖らせ前を見たまま、全くこちらを見ない石川の姿があった。
「なんだよ、拗ねんなよな」
肩を抱き寄せて言っても、まだこっちを見ない。
「別に拗ねてませんけどね、私があのタイミングで行かなかったらどーーーしてたのかなぁとか思ったりね!」
「どうもこうもねぇだろが」
「私が来るまで彼女いるって言ってなかったんですよね。ビックリしてましたもんね、高瀬さんが好きそーーーな美女がね」
なんだよ、こいつ機嫌悪いな。と思いながら、諦めてシートベルトを締めた。
ついでに効きの悪いエアコンの温度をも上げる。
(つっても、そりゃそうか)
逆に考えりゃ、こいつの反応はまだマシな方だろうと思い至った。
俺だったらどうだ。
もっと追い詰めて問いただすかもしんねぇし。
「同じビルで働いてる、連絡先聞いていいですかって。無理だって言ったぞ、女がいるいねぇの話にまで進んでもねぇの。わかったか?」
「……べつに、ほんとに疑ってたわけじゃないです」
「じゃあなに」と聞けば、さっきまで恐ろしくキレてた目が何やら寂しげに潤む。
誰に宣言するつもりでもないが、俺はこの顔には相当弱いと思う。死んでも勝てないだろう。
「やっぱ、高瀬さんってモテるんですもん。黙ってたら性格良い悪いなんてわからないから、ただの顔面偏差値ヤバいだけのイケメンじゃないですか……」
俺は数秒考える。
「……あ?ちょっと待てよ、俺今けなされてんのか?」
「多分ですけど、褒めてますよ」と、恨めしそうに睨みながら、石川もシートベルトを締めた。
「多分て」
「つい最近、ビルのエントランスのところで女の人に捕まってたでしょ?その前はエレベーターとか、ついでにその前は一緒に出かけた時、私がトイレから戻ったら外でタバコ吸ってるとこ今日みたいにナンパされてたり、それに」
ヤバいな、何個出てくんだ。
「わかった、悪かった、ちょっと待て」
待てと言って待つ女ではないのは、わかっているが、もちろん今回も。
待つわけなかった。
「たまに知らない番号から電話きて、うっかり出たら大体女の人ですもんね。ただれてる……」
「そりゃお前と付き合う前の話だろ。もう会わねーし、大体誰かも覚えてねぇって」
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