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「いやいやいや、なんで!」
慌てっぷりが、既に答えのようなものだけれど。確信は次の、男のセリフで。
「やっと会えた! 連絡しても全然繋がらないし、メールも返ってこないから」
(あー、クソか、タイミングいいんだか悪いんだか)
前髪を掻きむしり、天を仰ぐ。
「だから、なんで……わざわざ来るの!?」
石川が言葉にしたわけではないが、聞かずとも相手の男が誰だかはわかるつもりだ。
(何だっけ、悠介だったか)
何度か石川に聞かされた名前、ついには顔まで知ってしまう羽目になるとは。
「荷物もういらないよって言ったじゃん」
「……それは、その……ごめん。それだけが用事じゃなかったから」
男の方は俺には気がつかず話してるようで、こちらを全く見ない。
(つーか、奥田が言ったまんまだな。別れた女のとこに来る意味がわからん)
盛大に舌打ちをしたなら、虚しく自分の耳に響いてきたから、さらに腹が立つ。
「それだけじゃないって、他に何かあるの?」
「み、美波に会いたかった」
「……はぁ? な、なんでよ、彼女いるくせに」
「別れたんだその人とは……。やっぱ、美波への当てつけみたいに付き合ったとこあったから」
「当て付けって……、何それ、私何かした?」
石川の声が不安げに揺れたところで「おい、お前誰の許可取って人の女口説きに来た」と。
石川のすぐ近くまで歩み寄って、やっと二人の間に割り込んだ。
出遅れたのは……あれだ。多分こいつパニクって俺の存在飛んでるだろって虚しさからで。
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