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元々の性格もあるのかもしれないが、つい最近、嫌というほどに学習したばかりだからだ。
チラついたのはもちろん秋田さんの姿で。
あいつばっかり責めたところで追い詰めるだけだし、何しでかすかわかったもんじゃねぇし。
だからといって何も言わないでいられるかっていえば考えるまでもなく無理な話で。
(だったら、根本どうにかするしかねぇだろ)
数分走ったくらいで息切れしてる自分が恨めしい気もするけれど。
(特に何もしてねぇと28……てかもう29か。身体って鈍るもんだな、クソが)
時間見つけてジムにでも通ってやろうかとか思いついたところで。視線の先で再び見つけた後ろ姿に俺はニッと口元に笑みを作った。
予想どおり、信号待ちで引っ掛かってるとこ無事追いつけたってわけだ。
「おい、お前ちょっとストップ」と乱れた息を整えながら言った。それに対して相手が反応を返してくる前に、背後からパーカーのフードを思い切り掴み、動きを止めた。「ぐぇ……っ」と何やら苦しそうな声が聞こえて、さすがに悪いと思いながらも力を緩めず。
信号が青に変わり、まわりの人間が歩き出す中。身動き取れず恐る恐ると言った様子で振り返った顔が青ざめていく。
「……な、誰……って、ひぃ!!」
情けない声をあげる、童顔。
性格が顔に滲み出るとは、よく聞くが。まさに、そんな気がしてくる。
きっと、顔のまま和やかにあいつと一緒にいたんだろうな、とか。考えるだろ、余計なことを、こいつが目の前うろちょろしてる限りな。
自分とは全く違うタイプの人間を前に、チリチリと胸の中で嘲笑うよう、痛みが充満していく。
「おう、ちょっと顔貸せ。ったく、こんな走らせやがって」
ポキポキと首を鳴らしながら言うと。
「な、なな、何で俺!?」
と、さらに顔色を悪くした。
走ってくれとか全く頼んでないですよ!とでも言いたそうな非難めいた声。
引っ張り上げて、そんな情けない声を出し続ける男を無理やり立ち上がらせる。
その拍子に倒れた自転車を道沿いの店舗の壁に向けて蹴り倒した。
ガシャン!と、それなりに派手な音がしたからか。信号を渡ってきた数人のこちらを見る視線に気が付く。
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