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しゃがみ込んだままの男を冷ややかに見下ろし、ちょうど顔の横あたり、壁に足を当てて吐き捨てるように言った。
驚いた顔をする、この男にこそ俺は驚きたいところだけど。
「どんだけ未練があんのかしらねぇけど、手離したのはお前だろ」
「……」
「まさか、お前と別れたあいつを狙ってくる男がいること予想もしてなかったとか? だとしたらバカだろ。俺の他にもいたぞ、厄介なのが」
黙り込み、俯いたまま何も返してこない。
まあ、でも俺は思うわけだ。
別に追い詰めたいわけじゃない。ただ、この男に少しでもあいつに繋がる未来があるなら、捻じ伏せてでもきれいさっぱり消し去りたいだけだ。
失いたくない相手がいるんなら、優先すべきを見誤った方が負けだろ。
「自分の女の価値もわかってなかったんなら、別れて正解だな」
「な……! 価値なんて、あんたよりもずっと……っ」
言いかけて、飲み込むような仕草。
(ハッキリしねぇ男だな、こいつ)
蹴り上げたい衝動に駆られるが、どうにか堪える。
多分、いや、絶対。
手出したら怒られんの、俺の方。
脳裏に石川の姿を思い浮かべながら、
「何だよ」
と、とりあえず聞いてやった。
「価値なんて……そんなもの、知ってるに決まってるだろ。美波は可愛いよ、いじっぱりで口も悪いけど優しくていい子だ」
こっちこそ、そんなもん知ってるに決まってんだろ、喧嘩売ってんのか、と。
口を挟みたいが、長くなるのも面倒だから仕方なく飲み込む。
「だったら何別れてんだよ、ま、俺はおかげで自分のもんにできたわけだけど」
「……あんたみたいな男にはわからないだろうな」
「あ?」
表情は見えないままだが、弱々しかった声に攻撃的な勢いが混じったように感じる。
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