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「美波はしっかりしてるし可愛いし強いから、俺みたいなのは卑屈になる時もあるんですよ」
「いや、誰のことだよそれ。可愛い以外別人だろ」
俺がそう言いながら鼻で笑うと、さっきよりも明らかな苛立ちを含ませ、悠介が叫ぶ。
「美波のことだって言ってるだろ! あんたみたいに自分に自信がある奴はそりゃうまく付き合っていけるんだろうなって言ってるんだよ!」
でかい声出るんじゃねぇか、と感心するくらいには声を張り上げて返してきた。
「はあ?」
しかし、これがまたおかしなことを堂々と言い放つもんだから。
無意識に壁に当てていた足を動かし、耳の横スレスレ、もう一度蹴り付けた。
「……な、何だよ」
「言い終わったか?」
「…………」
黙ったままの男に、付き合うほどの余裕もなく。
本格的に腹が立ってきた。
余裕があるなら何が悲しくてこんなとこに男追い込んでんだって話だし。
あいつは、褒められたら褒められただけ、上げられたら上げられただけ、相手の目に映るそのままの自分でいようとするだろ。
(ふざけやがって)
「しっかりしてる、可愛い、強い……なぁ。もう一回言うけど。それ可愛い以外、当てはまってねぇぞ、お前あいつの何見てきたよ」
「はい?」
「ちなみに自信なら俺もない。ないから、こうやってお前を追い詰めて、この次がないようにしてんだろ」
「……次がないように?」
「そうだ」と頷きながら足を下ろして、かわりに男に視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
怒っているような、怯えているような。何とも言えない表情のこの男だけど。あいつが何年も好きだった男だ。
中途半端にしておけないだろ。
「せいぜい後悔してろよ、もうあいつはお前のもんじゃねぇんだから」
真正面から睨む俺を、睨み返す度胸は芽生えてきたらしい。
悠介とやらはもう視線を逸らしはしなかった。
「……そう、ですね」
「つーか、お前もタイミング悪いと思うわ。俺はつい最近痛い目見たとこなんだよ、つまんねぇ嫉妬で自分の女だけ責めてたらどうなるかってさ」
「タイミング……ですか」
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