番外編

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「待て待て。責めてんじゃねぇよ、事実だろが」 「え?」 「一応、一件落着だろ。もう連絡してこないんじゃないか?」 あの性格じゃ、どうにかしようと思えばどうにかしてくるだろう。 (それが今おとなしく退散したってことは、とりあえず……) 俺をどうにかしてまで、石川を取り戻す気はないってことだ。 ……はっ。と、鼻で笑って、隣の石川を見下ろす。 「つーかお前な、帰ってろって言っただろ」 「いやいやいや、帰れると思いますか? あの状況で……、って、そんな、ことより」 「何だよ」と見下ろしてギョッとした。 今の今まで普通……どころかうるさく喚いてたはずが。 「……しかも……っ、泣くとか」 「す、すみません」 「ったく、お前はよく泣く奴だよな、意地っ張りなくせして。どうしたんだ」 泣かれるとどうしようもない。 俺は久々の全力疾走で汗ばんだ前髪を掻き上げながら、言葉を選ぶ。 「勝手に追い払ったのは悪かった」 「違いますよ、別に、そんなのこっちの方が悪いんですから」 「じゃあ何で泣いてんだ」 「うれ、しくて……ですね、つい」 うう、と本格的に泣き出してしまった。 勘弁してくれ。 「悪い、さっぱりわからん」 「高瀬さんと悠介が話してるの聞いたら、こう……時間差で感動してるとこです」 (話してるとこ聞いた……) 「おい、どこから聞いてた」 そりゃ、割って入ってきたんだから聞いててもおかしくない。 「”俺があいつに惚れてたからだよ”くらいから……」 「おいコラ、お前追いつくの早いな」 だいぶ恥ずかしい。本人不在だからこそ言えることってあるだろ? あるよな? 今まさにそれだったわけなんだけど。 「高瀬さん。いっつもそう、いつも、私が何も言えなくても伝え切れてなくても……わかろうとしてくれる。先回りして考えてくれて」 泣き止む気配もなく「何でそんなイケメンな上にハイスペックでスパダリ要素まで備えてるんでしょうか……」と、もう俺にはよくわからない横文字を並べ出す。
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