番外編

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  特にややこしい注文書はなかったし、もちろん請求関連も終わったし。 ……何があったんだ? と、聞こうとしたなら。 石川が自慢げにパソコンの画面を俺の方に向けてきた。 (……なんだ?) こいつが操作してるデータは課内の共通ファイルに保存されているものだから口頭で伝えてくれれば、画面を向けてこずとも自分で操作して確認できるわけだけど。   何やら嬉しそうにしてるので黙っておく。 「見てください! これ、田代さんに教えてもらいながらまとめたんですけど」 「ん?」 手招きされるままに、イスをゴロゴロ引きずって石川に近づいた。 相変わらずいいにおいがして、週末が抜け切らない身体は平気でムラムラしてくるもんだから。 男ってのくだらねぇなと、我ながら嘆きたくなる。 「ほら、新システム始まってから見積もりとか私でも手伝いやすくなったじゃないですか」 「まぁ単価固定されたからな」 うんうん、と首を縦に振って。 やっぱ楽しそうだ。   「でも、高瀬さんの顧客って内容も特殊だし、保守もややこしいし、単価を支店で触れちゃうの結局何個か残るでしょ」 「ああ、そうだな」 「だから、今までの高瀬さんが出してる見積もりと受注までの期間。あと単価の変更回数とか、あれこれね、まとめて」 ずいずいと遠慮なく近寄り続けてくる石川から……まぁ、なんだ。 あれだ、繰り返すけどいいにおいするし、疲れてるからすぐ触りたくなるし。 いやでもここじゃまずいしいってわけで……ちょっと勘弁してほしいと思いながらも。 なんだかんだ一生懸命説明してくる姿が可愛くて、聞いてやってしまう。 こいつにはとことん弱いな俺も。言わないけど。 「この……なんだっけ、上のとこクリックしたら、去年のパターンが出て、こっちだと半年以内の傾向で……」 (あー、なるほどな)   たどたどしい説明に、朝から続く上機嫌の理由が見えてきた。 田代さんが昔から使ってる営業お助けファイルだとか何とか、岩本課長に聞いたことがあったけど。 孤立してる田代さんはそれを誰にも使わせないし、別になくても似たようなもんがあるし……って。 (放置してたけど、便利そうだなやっぱ)  
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