番外編

36/38
前へ
/337ページ
次へ
石川が妙に真面目な顔して俺を見るから、ぎくりと身構えた。 「なんだよ」 バツが悪そうな顔で、目を伏せながら。石川の口から小さな声が響く。 「高瀬さんがいるから辞めてもいいんじゃない? とか……思ったんですよ」 「俺?」 自分を指して、眉を寄せた。睨んでるわけじゃない。意味がわからないからだ。 「そ、そのうち結婚できるなら辞めたってなんとかなるんじゃん?って、思っちゃいました」 「ああ、そーゆうな」 「呆れましたか?」 居心地悪そうにチラチラとこちらを見て、目が合ったなら、勢いよく逸らす。 「別に呆れるもんでもないだろ、事実なんだから」 「でも、なんか狡いってゆうか、高瀬さんを逃げ場にしてるっていうか」 「間違ってないだろ」 俺が言うと、石川はグッと何かを堪えるようにして下を向いた。 多分これは言葉が足りなかったやつだ。 「おい、違うぞ。別に責めてるわけじゃない。本当にお前がきついって思うんなら逃げればいいし、俺がそうさせてやれるんならそれでいいじゃねぇか」 「え?」 「まぁ、でもそれじゃ気に食わないって言うんなら、付け加えとく。もしいつか俺がそう言い出したらお前が俺を助けてくれればいい、逃げ場になってくれれば」 ボケッとしてる頭をわしゃわしゃと撫でる。 大概『ボサボサになるからやめてくださいよ』と怒ってくるはずなんだけど、返ってこない。 かわりに石川の細い指が俺の手に触れて、引き寄せられた。 バランスを崩した俺は、よろけてテーブルに手をつく。 絵的にはそのテーブルに、もたれ掛かって立っていた石川追い込んで囲ってるような。 なんとも言えない……他の社員に見られたら騒がれかねない体勢なんだけど。 「そっか! そうだ、そうですね高瀬さん!」 本人全く気にしていないらしく、こいつの判断基準がさっぱりわからない。 「次は何だよ」 「そうですよ、高瀬さんもほら、私に頼ってくださいよ! なんでもどうぞ、ほら」 「……いきなりだな、お前は」 ネクタイを楽しそうに引っ張る姿も、可愛いから勘弁してくれ。  
/337ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7694人が本棚に入れています
本棚に追加