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「思いつきもしなかった! 高瀬さんがもっと私を頼ってくれればいいいんだ、そうですよ」
ほらほら、と。目を輝かせ出した。
それも、単純に可愛いな、と思って。
「そーだな、じゃあとりあえずお前からキスしてこいよ」
「……なんですと?」
「いや、真顔かよ、せめて照れろ」
「か、会社なんですけど! 仕事で頼ってくださいよ!!」
「もうお前が色々やってくれたじゃねーか、仕事は」と、からかうように言って、目の前に迫る鼻を摘まんでやった。
「い、痛い! ってゆーか待って動けない!」
自分から迫ってきといて、がっちりホールドされた腰にようやく気がついたのか。
「自分で言い出したことくらいちゃんとやろーぜ」
「……ぐ!」
「疲れてるっちゃ疲れてるしなぁ、週末はお前の昔の男の相手させられるし、今日は今日で忙しかったし」
「…………しますよ、しますけど一瞬ですから」
これでもかと赤くなった顔が目の前にあって。
いや、どっちからとかどうでもいいしすぐに食いついてやりたい衝動を抑えて。
ようやく吐息が触れた、その瞬間。
「ちょっと〜、なーにしてるんですかぁ? お二人さ〜ん」
「こら、間宮さん邪魔しないんだよ」
聞き慣れた奴らの声が聞こえてくる。
チッと、お決まりと言われようが苛立って舌打ちしたなら「はいはい、ごめんね」と奥田の愉快そうな声が続いた。
「え〜。俊平くん会社でガッツくキャラだっけぇ? 引く〜」
「あのな、お前ら……」
と。俺は二人の相手をしながら、妙に静かな女に気がついて視線を向ける。
その先には驚愕の眼差しで、間宮と奥田を交互に見つめる石川。
やがて非難めいた声を俺にぶつけた。
「だ、だだ、だから! だから言ったのに会社だって、言ったじゃないですかぁ!」
「おい」
やばい、涙目だ。
「落ち着け」
「か、帰る、私帰ります……!」
言うが早いか。
叫びながら休憩スペースを逃げるように立ち去っていく背中。
あの怒り方は長引きそうだなぁ、と。ため息混じりに眺めていたなら、ずしっと肩に重みを感じた。
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