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「たーかせ。ダメだろ、こんな誰がくるかもわからないところで迫っちゃ」
「あ〜あ、石川さん、こーゆうの見られちゃうとパニクりそうなの考えなくてもわかるのにぃ〜」
確か、過去には俺を好きだとか言ってた間宮も、あれ幻聴だったのか? って疑いたくなるくらい小馬鹿にした目でニタリと笑みを作った。
「誤解だ、俺は悪くねぇぞ。あいつから来た」
「いや、どー見ても石川さんは真面目に仕事の話してたと思うけど、俺は」
色素の薄い髪をサラリと揺らして、胡散臭い糸目な笑顔が聞き捨てならないことを言う。
「……おい、一応聞いてやるけど、お前らいつからそこにいた?」
奥田と間宮は二人して意地の悪そうな笑顔を見せながら。
「石川さんがぁ〜」
「結婚に逃げたくなったとか何とか言ってる時だね」
しれっと言ってくる。
俺はとりあえず糸目の方に蹴りを入れた。
「ふざけんなよ、見てんじゃねぇって」
「やだ、横暴〜」
「お前も、いつの間にか奥田に毒されやがって」
「ヤキモチ〜?」
「ふざけんな」
今日の敗因は、この二人に現場を見られたことにありそうだ。
吉川までこの場にいなくてよかった、と。げんなり肩を落とす。
けれど。
どうやって怒ったあいつの機嫌とるかな、と。
考えるこの瞬間にまでも俺は胸を躍らせるのだから。
果てのないこの感情も、敗因に入れておくとするか。
(んで、負けっぱなしの俺がやることは、こいつらの相手じゃねぇしな)
ポケットからスマホを取り出し画面をタップした。
まずは『お前どこにいる?』と、すでに姿を消している石川美波にメールを送るところから。
番外編① fin
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