恋のはじまり

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「んで、どこ行く」 「え? どこって、何がですか?」 「あ? 飯まだって言ってたろ」 ああ、いつのまにか一緒にお昼を食べることになってたらしい。 嬉しいような、切ないような。 でも、やっぱり嬉しいような。 揺れる心は結局素直なのか。 「ガッツリ! 行きましょう、ガッツリ!」 驚くほどに弾んだ声が出た。 そう、結局は隣にいられることが嬉しいんだよね。 気付いた途端、恋をしてる自分が待ってましたとばかりに主張するんだから。 「んじゃ、そこのかつ屋にするか?」 「え、ハンバーグがよかったんだけどな」 「あの洋食屋量が少ねーんだよ」 否定的な声に、諦めない私も高瀬さんを非難の目で見上げる。 「…………おい」 「はい」 答えると、突然頬をつねられる。 「い、痛い!何するんですか、酷い!」 「可愛い顔見せてりゃ男は折れると思ってんのか」 え、私いつ可愛い顔しましたか? って、まあ普通に答えた後で。 ぶわっと顔が熱くなる。 可愛いって、言われた? え、こういう時どうしたらいいんだっけ? どう反応するのが、いい雰囲気とか、そんな方向に持っていけるんだっけ?? 「ま、まあ、生き抜く技ですよ!」 って、違う! ポロっと出てきた言葉に頭を抱えたくなる。 こんなの違う、まるで狙ってる女みたいじゃないか。 でも、もう訂正することもできないから。 高瀬さんの反応待ち。 「へーへー、あんま使うなよ」 「……え?」 わしゃわしゃと、頭を撫でられて。 「お前が思うより男は単純だぞ」 って、ちょっと不機嫌な瞳が私を映した。
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