第3章 偽解放者の側近で

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次の登校日。圭は窓から玄関先を覗いてみる。 亜壽香の姿はそこにない。それを確認すると家を出た。 学校に入り教室を目指そうとするときだった。ふと視界の端に友人と一緒にいる亜壽香の姿が目に入る。 すると、一瞬亜壽香もこちらに気づいたようでチラリと見てくる。 だが、それはほんの一瞬ですぐに視線を外すと友人と一緒に自分の教室に向かっていく。圭もまた、そこに深追いなどはせず教室に入っていくのを見届けると、自分の教室に向かう。 教室に入る前にチラリと後ろを確認してみた。もしかして偽解放者の側近が尾行していたりしているのかな、と思っての行動だった。 残念だけど、側近の人を見つけることはできなかったが。 そして昼休みの時だった。ガラケーのほうに長井からショートメールで連絡が送られてくる。 『いきなりで申し訳ない。今日の放課後、僕に付き合ってくれないかい?』 本当に急な呼び出しだ。 『いまいませんけど。何かありました?』 『君に続いてまた面談の申し出が来てね。ぜひ、君も一緒にと思ったんだよ』 ……なぜ、信頼できる側近ではなく、圭を呼び出す? どうにかして、圭の正体をつかもうという気なのだろうか……。 『分かりました』 『頼む。あと、その人物と会った時は、僕の話に合わせて欲しいから、その点もよろしく。あぁ、別に難しく考えなくていいから』 そんな感じで放課後、また長井に会いに行くことになった。亜壽香の動向を探れと言っておきながら、よくわからない話だ。 指定された空き教室に入ると、やはり先に長井が来ていた。 「来てくれてありがとう」 圭も軽く会釈をして長井に近づく。すると、長井は一枚の紙切れを圭にわたしてきた。 「君と同じ手口だね」 その言葉を聞きながら圭は紙切れを受け取る。 教室と時間を指定された紙。 「……ところで、なぜ俺を呼んだんですか?」 真っ先に思う疑問をぶつけると、長井は紙をひっくり返すようなジェスチャーをしてみせた。 圭はその促しのとおり、紙を裏返してみる。 「……っ!?」 そこにも文字が書かれていたのだ。 『俺は支配する側の人間だ。それを知った上で、恐れないのならばやってくるがいい』 「……支配する側……」 「最初見たとき、流石にびっくりしたよ。まさか、こうも堂々とした人がくるとはね。狙いの一つだったとはいえ、ね」 長井は紙切れを圭の手から取ると自分のポケットにしまいこんだ。 「まぁ、こんな手紙をよこすくらいなんだから、準備はしているんだろう。もし、面倒なことになったとしても、無敵の君がいれば、ひとまずは安心だからね。 もし、僕が口封じなどをされた場合、君が代わりに僕の側近に話してもらう。君の正体がなんであれ、この頼みは聞いてもらうよ。 もし、僕の頼みを裏切るようなことがあれば、側近には君が支配する側の人間であると判断させるように言い聞かせてあるからね。 この意味、分かるかな?」 「……承知しました」 「よろしい」 そこまで話すと長井は自分のスマホで時間を確認しだした。 「さて……と、もう時間は立っているはずなんだけどね……」 そう言われ、自分のガラケーで時間を確認する。確かに指定された時間は五分強過ぎている。 念のため空き教室を見渡してみるが、圭と長井以外の人物は見当たらない。 「まぁ、でも、時間ぴったり来るとは限りませんからね」 なんて感じでフォローを入れた時だった。 教室の隅から物音が突然聞こえてきた。それが掃除用具入れのロッカーの中からだと気づくのに数秒の時間を要した。 「「……?」」 圭と長井、思わず互いに顔を見合わせる。そして、その用具入れに近づこうとしたのだが、向こうから勝手にドアが開き始めた。 「ふぁぁあ……、間違って寝てしまった……」 そして、その用具入れの中から一人の男子生徒があくびをするような声をしながら出てくる。”ような”というのか、直接表情を確認できなかったからだ。 その人物は仮面をかぶっていたのだ。 いつもの通り足元のスリッパにも目を通すが、市販のスリッパで学年を表す色スリッパではない。 「き……君……いったい……なぜそこに?」 動揺しながらも質問をする。 「……うん? いやぁね。本当は君たちがきたところで、バンッ!てロッカーの扉を開けて驚かせようかと思っていたんだがね。 だけど……思わず寝ちゃったよ。あれだね、視界が暗くなると一気に眠たくなるね。クククッ」 男子生徒は最初おどけたようにしゃべりだしたかと思えば、クツクツと仮面の奥で笑い始める。何とも不気味な印象をはなっている。 そのまま近くにあった椅子に座ったかと思えば、足を机の上に投げ出す。 「……ちなみに、君はいったい何者なのか、質問でもしたら答えてくれるのかな?」 「あぁ、そうだった。わたしから呼び出したのに、挨拶が遅れてしまったね」 男子生徒は仮面ごと長井のほうに視線を寄せた。そのあと、「よっ」と言いながらスリッパのまま机の上にたつ。 圭はもうすでに、この人物がどういうやつなのか、大体察しが付いていた。そいつは仮面をかぶっているのだが、その仮面というのがキツネだったのだ。 もはや、ここにはつながりしかない。 男子生徒は手を大きく広げ、背を伸ばした。 「お初にお目にかかる。わたしはグループ:キングダムのリーダーを勤めている、王という物だ。以後、お見知りおきを、解放者殿」 そう言いながら、丁寧に腰を折る男子生徒に対して、圭は素早く思った。フェイクであると。
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