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自らをキングダムの王と名乗る男子生徒。キツネの仮面を被り机の上に立っている人物。
だけど、圭にはわかる。これはフェイクだ。
この前、田村(ロミオ)とジュリエットとのエンゲームで遠くから真の王と思しき人物を見ている。
そいつは、はっきりとは見えなかったが、服装から恐らく女子生徒だというのは分かっている。
なにより、田村とジュリエットのセリフ。あいつらが直接会ったのは影武者の男子生徒。であるならば、目の前にいるこの人物は、その影武者である可能性が高い。もしくは、それよりもさらに真の王から遠い存在。
まったく、ここまで王と名乗る奴らが現れまくったら、この王という称号すらもはや、安く感じてくるレベルだ。
いったい、自称王は何人出てきたら気が済むのだろう。
「お……王……だって? キングダムの?」
そんなことを知りもしないのであろう長井が驚愕の表情をこの影武者に向けている。だが、直ぐにその表情はぎこちないながらも笑みが入っていく。
「これは……驚いたよ……本当に驚いた」
「クククッ、どうやらサプライズ自体は大成功のようだね」
「そうだね……本当にサプライズだよ」
長井は胸に手を当てぐっと拳を握り締める。
「だけど、好都合でもある。支配する側の人たちを引き寄せるのが目的だったけど、ここまで堂々とした人が現れるとは思ってもいなかったよ。
まさに、嬉しい誤算ってやつかな」
長井のセリフを横に立って聞きながら内心「どうだろうか」と思った。果たしてこれは本当に長井が望んでいた展開なのかな?
長井の目的が本当に支配する側の人たちを倒すことならば、喜ばしいことなのかもしれないが。それが第一の目的でなかったらどうなのか。
「で、支配する側にたつ王様が、いったい僕になんの用だい?」
圭が推測するようなことは微塵も表に出さず、影武者に向かって一歩足を進める。
対して、影武者は机に立ったまま、大きく両手を広げた。
「単純明快。わたしの邪魔をする不届き者がいったいどういう人物なのか、確かめたくなったからだよ。そして、その口を綴じに来た」
そこまで言うと、影武者の仮面がギロリとこちら、圭のほうに向けられる。
「ところで、彼はいったいなんだね? 演説のとき連れていた付録とは別物らしいが? 無敵って言葉が聞こえてきたが、どういうことかね?」
随分と芝居がかった言い回しを続ける影武者。まぁ、恐らく自分の正体を隠すためと、影武者である自分にヘイトを向けるための演技だろうが。
にしても……やはりここでの圭と長井との会話は聞いていたか……。用具入れの中で寝ていたというのは口実だろう。盗み聞きするために……。
ちょっと、用心しなさすぎたな。
「なぜ、君に教える必要がある? それを喋って、僕に得でもあるのかい?」
といっても、この二人の関係で主導権を握っているのは疑いようもなく長井だ。長井に全てを任せておけばいい。
こっちはこっちで、こいつの情報を集めるため利用するとしよう。
だが、ちょっと待てよ……。
こいつが本当に真の王の影武者であれば、本物の解放者の存在を知っていると考えていいのではなかろうか……。少なくとも真の王の意思と関係なく、こんな行動を取っているとは思えない。
で……あれば……、こいつは、目の前の長井が偽物であると気づいているのではないのか?
いや、そもそも本物は仮面を被っているから、断定はできないのかもしれないが……。
「まぁ、そうだろう。簡単に説明をしてくれるわけなどないとは理解しているよ。だけど、大体の想定はつく。
おそらく、隣にいる彼はコントラクトのアプリを所持していないのではないかね? スマホそのものを持っていないということかな?」
影武者はそのまま机から飛び降りると、圭にキツネの仮面を近づけてきた。
「しかし、解せない。なぜ、そんな奴が解放者のそばにつく? 君こそ……いったい何者なのかね?」
圭は口を動かさず、間だって仮面を見続ける。そんなところを、長井が横から口を挟んできた。
「彼がどういう人物なのかは僕も知らないよ。恐らく、君と同じ、支配する側の人間なんかじゃないかな? スマホを隠し持って」
「おやおや、随分と主人からは疑いをかけられているようだね。これまた随分と勝手な決めつけだね」
そう言いながら影武者が俺の頭に手を置こうとする。それを圭が振り払うと、影武者は「おおっと」と言いながら少し離れる。
「では、ついでにここで、わたしも勝手な決めつけをさせてもらおうか……君」
と、言ってしばらくタメを作ったあと、ものすごい勢いで仮面を長井のほうに向けた。
「偽物だね」
――やっぱり――
圭は内心対して驚かなかった。あまりに想定通りの答え。
だが、解放者を崇拝する小林圭としては、驚かなくてはならない。
「……えっ?」
故にそう言って、長井の横顔に視線を向けた。
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