第3章 偽解放者の側近で

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「偽物だね」 影武者がそうズバリと長井に推測という実質の事実を突きつけてくる。合わせて圭は驚いたフリをして長井に顔を向けた。 「偽物?」 「いったい何の話をしているんだい?」 圭の疑問を覆いかぶすように食いかかってくる長井。圭はこの人が偽物だとわかっているからかもしれないが、口調とは裏腹に随分と必死なように見えた。 「僕が……偽物? それって、もしかして僕が解放者ではないっていう意味かい?」 「もちろ。それ以外の意味があるとでも?」 仮面をかぶる王の影武者と嘘をつく偽物の解放者。まさに一触即発といった感じににらみ合っている。この二人の正体をどちらもある程度わかっている立場からみれば、なかなかに滑稽。 「あ……あの……先輩? 偽物って……どういうことです?」 ここは圭、この質問をはっきりとする以外の選択肢はない。解放者を崇拝する小林圭としては当然の行為だし、それがこいつを追い詰める一手でもある。 「君は気にしなくていい。王と名乗る奴の話を間に受ける必要はないよ。きっと、僕の……解放者の信頼を奪うためのことだろう。 だよね?」 「クククッ、わたしは真実を言ったまでのこと」 影武者はゆっくりと長井の横に付けた。 「わたしは王だ。そして、すでに解放者とも交えている。だが、君ではなかった」 「それが本当のことだという証拠はないよね?」 「証拠など必要ない。少なくとも、今ここでわたしが君に証拠を突きつける必要などないのだよ。ただ、わたしが真実を知っているというだけ。 内心では、この意味が分かっているはずだ」 影武者が言いたいことは分かる。別に影武者にとって、長井を偽物だと認めさせることに何の意味もない。だが、確かに影武者は長井が偽物だということを気づいているし、長井もまた、この王と名乗る者に偽物だとバレていることを知った。 今この場にあるのは、長井に対する強烈なプレッシャーのみ。 「まぁ、もし? 君こそがわたしと対決した解放者だというのならば、それでもいいのだよ。わたしも残念ながら解放者の正体までは知らないからね。 君とわたしは会ったことあるかね? 君は本当に解放者なのかね? それか、本物の解放者によって生み出された顔、影武者とか? 正直、君が解放者の差し金で、裏で手を組んでいるものだとしたら、反論はできないね。それどころか、私の中では一番しっくりくるかもしれない」 うまい質問だ。 もしここで、長井が自分を本物と言い張り、またはこの場をしのぐために、認めたとしよう。そうした瞬間、影武者は長井が偽物だと確信にいたる。 影武者にとって、長井が本当に偽物だと完全に断定はできていないはずだ。本物の解放者は仮面をかぶって正体を隠しているのだから。 だが、ここで長井が王と戦ったことある解放者と名乗れば断定される。なぜなら、実際に王と解放者はまだ、直接交えていないのだから。 本当の解放者、圭であるならば、さっきの問いに関してはこう答えるのがベスト。 『確かにキングダムと対決はしている。だが、お前とはまだ対決していない』 これこそ、解放者と王で共有している情報。それを答えない限り、影武者の中では偽物と断定される。 そもそも、本物の解放者であれば、目の前のやつが影武者であると、少なくとも本物の王ではないことを知っている。無論、影武者もそのことを理解しているはず。 「……残念だけど……僕は君のことを知らないね」 ……ほう、そう答えるか。この状況においては、ベストな回答ではなかろうか……。下手に圭の信頼を得ようとするより、目の前の王と名乗る人物に隙を見せないことを選んだわけか……。 「であるなら、君が偽物であることは確定だ。お疲れ」 影武者はそういうと、笑いながら机に向かって体を投げ、乱暴に座る。 影武者は勝ち誇ったような感じを出しているが、内心では舌打ちでもしているのではなかろうか。この長井が偽物である可能性はまだ十分すぎるほどあるが、本当は確定ではない。 今の影武者から見た長井の考察は大きく分けて二つ。 ひとつは、解放者とは全く関係ない別の存在。完全な偽物。 もう一つは、本物の解放者であるが、あえて偽物であると振舞っているという可能性。または、解放者の差し金、影武者である可能性。 普通に考えたら、ずっと正体を隠してきた解放者が急に顔をさらけ出すとは考えられない。だが、それこそが作戦であるということ。顔を上げて名乗れば自然とヘイトは名乗ったものに行く。 本物の解放者を知っている者(今回でいう王、またその影武者)から見たら、顔を出している奴が本当に本物であるとは考えにくくなる。こういう心理を逆手にとった作戦。 また、偽物であっても、影武者であれば、本物の目をくらますことが目的ということになる。 「偽物の解放者殿。楽しいひと時を提供していただき感謝しよう。君とはまた、ぜひ遊びたい。そのときはまた、連絡をよこすとしよう。 今度会ったときは、ぜひ君の目的を教えていただきたい」 そう言うと、影武者はさっさと教室を出て行った。 だが、今は影武者よりも、そいつを黙って見送った長井に視線を向けた。 はっきりと認めよう、長井敏和。解放者を名乗るだけのことはある。そしてなにより、本物の解放者からみれば、ますますお前の正体と目的が分からなくなってくる。 てめぇはいったい……何者だ?
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