第3章 偽解放者の側近で

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田村との通話を終えた圭は次に通話する相手の選択を始めた。スマホを通して、二人、次郎と森の連絡先を表示する。 「さてと……どうするかな」 ひとまず、こちらから……本物の解放者からも少し動きを見せていきたい。といっても、圭が直接動くのは色々と面倒なのは言うまでもない。 であれば、次郎か森を動かしたい。 攻めの一手して、いいのはやはり本物が解放者に直接、長井に接近すること。だが、ただ接触しては相手の思うツボなのは明らか。 なにかこの接触をしっかりと利用したい。 いまの長井から得たいのは一体何か……。ひとつはやつの目的だな。これは実際に接触したあとの奴の動きを見られればいい。 やはり、奴の行動を抑制したいというのはあるな……。 あとは、王の影武者に近づきたいというのはあるな。奴らはこれからも牽制をし合う。その中に入ることができたらかなりいい。 「あと……」 圭は少し躊躇しながらももうひとりの連絡先のページへスライドさせた。そこにある名前は亜壽香。 思い浮かぶのは、結構ゲスな考えだ。単純に言えば亜壽香に長井のヘイトをあえて向けようということだ。 亜壽香は解放者ではない。逆に言えば長井にどれだけ亜壽香を疑わせても、そこから何か厄介なことなどは起きない。 確かに最初は、亜壽香の疑いを晴らそうと思っていた。だが、その必要はあるのか? 本当は違うのだから、放っておけば疑いは晴れる。むしろ、本物である圭のヘイトを逸らすほうが重要。 「……いやいやいや……いくらなんでもこれは……」 頭を抱え、首を横に激しく降った。 いくらなんでも手段を選ばなさすぎだ……。 いや、でも……それもやっても……実質的な亜壽香のデメリットはない……いや、そんなのは圭目線の勝手な押しつけ……。 「……でもな」 亜壽香に本当のことを言えと言ってから数日たったが、結局連絡はこなかった。もはや、素直になってくれない亜壽香が悪いんだろ……。 あぁ……それも違う……。 「あぁ……くそっ……」 圭は思いっきり自分のスマホに目線を向けた。 「これが最後だ。これでも、亜壽香は支配される側であることを認めないのなら……」 とにかく、何かしらきっかけを求めたいがゆえに、亜壽香へ連絡を出した。 しばらく鳴り続けるコール。そのコーのループを聞きながら、黙って待つ。でれないのか? そう思い、もう一コール終わったら切ろうと思った時だった。 『……もしもし』 コールが終わり、亜壽香の声がスマホから届いた。 「あ、亜壽香」 だが、いざ通話が始まると、次の言葉が出てこなかった。あくまでも、圭は亜壽香を利用する口実を探しているのだと、思考して思い知らされるよう。 『……なに? 黙り込んで? そっちから電話したんだよ?』 「あ……っ、いや……」 『まさか……あたしの声が聞きたかったとか?』 「あっ、そう! そう!」 『ふざけんな!』 「うっ!?」 会話となんとか続けたいがために、まんまと亜壽香に乗せられていた……。割ときついツッコミに結構怯んでしまう。 『分かってる。どうせ、あたしにコントラクトの被害を受けている、支配される側だって、言わせたいんでしょ? でも、残念だけど答えは変わらない。あたしは別にコントラクトで困ってなんかないよ』 やはり変わらない返し。だけど、今の圭にとったらどうしようもないほど好都合な話だ。利用する口実になってしまう。 悲しいけどありがたい。複雑な感情が交差していく。 「なぁ……亜壽香? なぜ、そこまで嘘をつくんだ?」 『嘘はついてないから、その質問には答えられない。それはこの状況じゃ無意味な質問だってこと、分からない?』 分かる。そんなの当然のように理解している。 「お前さ、このままじゃずっと変わらないかもしれないんだぞ?」 『支配されていない今の状況から変わってしまって、支配されたくなんてないし。もし、仮にあたしが支配される側だとしても、解放者がいるんだから何の問題もない。 圭にはなにもでない。なんども言わせないでよ』 クソッ、本当に同じことを繰り返しているだけ……。 圭はもうこれ以上はないと、拳を握り次の言葉を出す。 「それで……いいんだな?」 『……え? なに?』 小さくて聞こえなかったのか……。もう一度、しっかり喉を意識して言葉を吐き出す。 「お前は……それでも、支配される側ではないと、言い張るんだな?」 『……うん』 そのけっして変わらない亜壽香の肯定を聞き、息を吐いた。 「……分かった。ならもういい」 遠慮はしない。 そうして、圭は自分から通話を切りに行った。 亜壽香が悪いんだ。素直に言わないから、助けを求めないからだ。だって、そうだろ? 亜壽香は支配される側の人じゃないんだ。だったら、解放者の濡れ衣を着せたってなんの問題もないだろう。 そもそも、圭の作戦では、あくまで亜壽香にもヘイトを向けられる可能性を増やすだけ。確実に亜壽香へ疑いを埋められるものではない。 上手く言えば、亜壽香へ意識を少し向けることが出来る程度。 よし、行動を移してもらうのは森太菜だ。
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