第3章 偽解放者の側近で

13/22
前へ
/185ページ
次へ
 決意をした圭は森太菜の連絡先をスマホ画面に表示させた。ひと呼吸おいたあと、通話ボタンに手をかけた。  森のほうは数回コールがなれば、直ぐにつながった。 『はい』  その一言のみを直ぐに送ってきては沈黙をしてくる。  圭もしばらく待ったあと、話を始める。 「頼みたいことがある」  電話の向こうから森のため息が聞こえてきた。 『やっとか……。演説の後、いったいどうなったのかと思っていたよ。で、今はどういうことになってるの?』  そうか……そう言われたら、演説のあとから、ずっと森とは連絡をとっていなかったな……。  さて、今の森はどこまでのことを知っていたっけか……。 「実はあれから、偽物の解放者の側近に付いてね」 『……は!?』 「小林圭は今、解放者の手伝いをするものとしてその場に立っている」 『……それって、大丈夫なの?』 「あぁ、大丈夫だ。疑いを持たれただけだ」 『……ダメじゃん!?』  華麗なツッコミが森から返ってきた。 『それって、本物の解放者であるという疑いのこと……だよね』 「まぁ、おそらくそうだろうな。本人が直接そういった訳じゃないが……。一応形としては支配する側という疑いになっている」 『偽物が……真っ先に疑う先が支配する側の人だとは思えないね。ちなみに、偽物の目的は分かってるの?』 「絞り込めては来ているかな。ま、偽物はただの遊びでやっているわけではなさあそうだな。  解放者の立場を乗っ取ろうというのか……。ただ、今の現状、現実味があるのは真の王の差し金というところだろうかな……」 『真の王……か……。向こうが、解放者に近づくために仕向けた可能性があるということ?』 「そのことも踏まえて、頼みたいことだ」  圭はひと呼吸おいたあと、口をもう一度開いた。 「アリス、君には解放者として、解放者を名乗る偽物、長井敏和に近づいて欲しい。その際、君にはあるウィッグも合わせて付けてもらう」 『……え? ちょっとまって……え? 話が飲み込めない……』  圭は少し黙り込み、息を吐いた。全部説明するしかないか……。 「長井は……あっと、偽物の名前が長井だ。その長井は、今現在、本物の解放者だと疑っているのであろう人物が二人いる。一人は当然俺だ。  そして、もうひとり、女子生徒もその対象になっていると考えられる。  そこで、アリスには、その女子生徒の雰囲気を醸し出しつつ、仮面をかぶって奴の前に出ていってほしい。といっても、女子生徒のフリをするんじゃない。お前の髪はセミロングだから、ウィッグでその女子生徒と同じロングヘアにする。  その上で、髪留めや髪型をしっかり変えてもらう」 『……それって……つまり……』  森がしばらく思考したらしく、唸ったあと続けた。 『偽物に、その疑いをかけているもうひとりの女性が、正体を隠しながら接近をしてきたように、見せかけたいってこと?』 「そういうことだ。完全にその女子生徒に似た雰囲気で行けば、女子生徒にヘイトを向けようという狙いがバレやすくなる。結果的に、女子生徒も疑っているということを知っている小林圭が、より、奴に疑われることになりかねない」 『……でも、身長は?』 「お前のほうが少し低い。ただ、体型はほとんど変わらない。対して親しくない相手、ましてや顔を隠しているような人物の背丈など、並べて比べない限り、簡単には分からないものだ」 『……それでも、随分な賭けに聞こえるんだけど?』 「安心しろ、本当の狙いはそこじゃない。あくまでも狙いは、奴が真の王と繋がりがあるかどうかだ。  長井の疑いの目を女子生徒に向けるのは、ついでに……というより副産物にすぎない」 『……どういうこと?』 「長井に対して、もうひとりの疑い相手、女子生徒の可能性を見せてやる。それに対して、やつはどう反応するかだ。  もし、これをきっかけに亜壽香に対して疑いを濃くする動作を見せたら、長井はおそらく真の王との繋がりは薄いと判断できる。  逆に、これを得てもなお、あいつは亜壽香の疑いレベルを上げる雰囲気がなかったら、真の王とは繋がりがあると考えられるわけだ」 『なぜ? ……いや、そうか……。真の王は、すでにあたしたちの仮面姿を遠くから見ている。少なくとも、真の王は、あたしの仮面姿とボブの仮面姿を目でみていた。その時のあたしの髪はセミロング。  遠目からといえど、髪の毛の長さならしっかり観察すれば分かったはず。  つまり、真の王と繋がりを持っていたら、ロングヘアの女子生徒は解放者の可能性から除外されやすくなる』  大体の考えは森の言うとおり、あっている。 「というより、本当に真の王と繋がっていたなら、そもそも、もうひとりの女子生徒にはほぼほぼ疑いなどかけてないだろう。あくまで俺を騙し込むためについた嘘が大半かもしれない。  どちらにしても、真の王とつながっているなら、こちらの誘導に対して、なにか反応を示すことはないだろう。女子生徒に対する、長井の反応で、察することは可能だ。  そして、俺はその反応を確かめることが出来るポジションに今、立っている」  そもそも、長井は圭に亜壽香の動向を見張れと行ってきた割には、それ以降たいした話はそれ以降してきていない。その点から見ても、長井にとって亜壽香への関心は薄い可能性がある。 「これが現状だ。この策、できるか?」 『やるしかないんだよね? 君の考えは十分理解した。最善は尽くすよ』
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加