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あれから、さらに森とは念入りに打ち合わせを続けた。ウィッグの長さの指定から、具体的にどう長井と接触していくかまで。
現状、長井の側近に見張られている可能性が高いゆえに、直接会って色々指示を出すのが不可能。それは正直難点ではあったが、さすが森といったところか。しっかり、圭の考えていることは汲み取ってくれた。
そして、そのまま作戦を進める時が来た。長井に出す手紙の内容は以下。
『君なら分かるだろう? わたしは解放者だ。本物のね』
これに日時と場所を指定した手紙になる。
ここはもういっそ、堂々と行ったほうがいいというのが、圭の想いだ。おそらく、長井だっていずれ本物の解放者からの接触はあるだろうと、考えているはずだし、流れとしても自然。
なにより、長井にとってみれば、これを見て無視をするという選択肢はほぼないはずだ。逆に無視などしてくれば、おのずと長井の目的はそれでしぼり込める。
その手紙は長井の下駄箱に放り込まれ、あとはそのときを待った。
『あーっ、あーっ、聞こえてる?』
「あぁ、OKだ」
『了解。こっちもOK』
自宅にて、アリスこと森との通信を確認。ちなみに、次郎のスマホを森に預けさせ、次郎のスマホと圭のケータイを通話でつなげている。
やはり、もし森がスマホを使うことになったら、と考えてはその方法を採るしかない。
ゆえに、次郎にも現状のことは報告しておいた。
「時間的にはそろそろ来るはずだな」
自分のスマホで時間を確認しながら言う。
「頼むぞ……アリス」
『……了解』
にしても長井、今回は圭を呼び出そうとはしなかったな……。前回みたくなにか好日を付けて圭を呼び出すと思っていた。
もう、手紙で解放者と名乗っているんだ。もし、疑いをかけているのなら、またとないチャンス。圭を呼び出し、その人物と接点があるのか、その真偽を確認できると考えられるはず……。
圭を呼び出さなかったその選択肢の意味としては……どうだろう……。長井の中では圭の疑いは比較的薄いものだった……。あくまで消去法的にその可能性があるかも、という感じ。
であるならば、わざわざ本物の解放者と合うところに、その圭を呼び出し、自分が偽物であることを疑わせてしまう行為と割に合わないと考えたか……。
といっても、これは限りなく希望的観測ってやつだな。あまりに圭にとって都合が良すぎる解釈だ。
であるならば、ほかの可能性。圭に本物の解放者である疑いをかけつつ、本物の解放者との接触に圭を呼びつけない理由。
……あるか?
あれ? それ以外の可能性……あるのか? いや、待て……そうやって油断させることこそが狙いの可能性も……。でも……なんだ? 本当にほかの可能性はないのか……?
だめだクソッ……、その真意を確かめることが出来る手段もない。もし、なぜですか、なんて聞いたら、それこそ解放者との繋がりを示すことになる……。
今は……黙ってやつを待つしかないわけか……。
それらしばらくの時を待ち、予定の時間。ドアの開く音が通話を通して聞こえてきた。
そのまましばらく、沈黙が来る。森と長井、牽制でもし合っているのだろうか。その後、ドアが締められる音とともに、長井が森もとへ近づいて来るような足音が聞こえてきた。
『……』
『……』
まだ、互いに沈黙を続ける。森に関しては圭の指示通りだった。果たして長井は本物の解放者を前にして、どういうスタンスで来るのか、確認したいがためだ。
やがて、長井から深く息を吐く音がした。
『君が……あのくだらない手紙をよこしてきた人?』
『……くだらない? そんな手紙を出した覚えはない』
森がかなり低いトーンでゆっくりとその言葉を告げる。すると、長井はさらにあからさまなため息をついた。
『困るよ……。君が本物だって? つまり……僕は偽物だって……言いたいわけかい? 色々な想定はしてきたけど、まさか君みたいな人が出てくるとは思っていなかったよ』
認めないスタンスできたか……。まぁ、でも最初はただのカマかけである可能性が高い。もし、本当に遊び半分で本物を名乗ってきた偽物の偽物だった場合、みすみす長井は偽物であることを、他者に知らせることになる。
『それに関しては、お前が一番理解しているはずだ。本物を目の前にしてよくもまあ、そんな嘘を堂々と吐けるな。どうあがいてもバレバレの演技をするというのは、恥ずかしくないものなのか?』
『その言葉はそっくり君に返すよ。あと、僕は今、君こそ支配する側の人間ではないかと疑っているからね。
基本的に僕に対して接触してくる人物は皆疑う。そういうふうに仕向けたつもりだからね。でなければ、僕にわざわざ会おうとする理由がない』
『支配する側として疑うんじゃなくて、本物の解放者ではないか、と疑っているんじゃないの?』
『僕が自ら名乗っているのに、なぜ目の前のやつこそが本物だと思わなければいけないんだい? すこし考えれば、君の行っていることの滑稽さがわかるはずだよ』
『……そんなお前こそ、実に滑稽だ。演技の才能あるじゃないか。わたしが本物でさえなければ、演技だとは見抜けなかったかもしれない』
『それは当然。僕は本当のことを話しているだけ。嘘偽りない姿に対して、嘘を見抜くのは無理だよ。もし、見抜けたら、そいつは間抜けだね』
『……その嘘八百でよく回る舌を引っこ抜いてやろうか?』
『僕も同じ気持ちだ。その僕にとって迷惑極まりないその嘘舌は、いくら僕でも黙っていられないね』
……こいつ……。本当に真っ赤な嘘を堂々となんの戸惑いもなく吐きまくってきやがった……。
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