第3章 偽解放者の側近で

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 本当に本物(の一人)である解放者アリスこと森に対して、堂々と自らが本物と名乗り続ける偽物の解放者、長井敏和。  森が本物であることをアピールし続けたが折れることはなかった。  ここまで頑なであるなら、こいつはおそらく最後までそれを突き通すことだろう。少なくとも、少なくとも、目の前のやつもまた偽物である可能性を考え、カマをかけただけ、ということではない。  長井が果たして、森のことを本物と思っているか、偽物だと思っているかは知らないが、解放者であろうとし続けている。 「アリス、十分だ。こっちから折れておけ」 『……分かったよ。お前も本物であたしも本物。今はそれでいい、いずれ分かることからね』 『そうだね。いずれ分かるだろう』  その後、通話の向こうから椅子が引かれる音がした。その後、座る音も。おそらく、長井が腰をかけたんだろう。 『で……、いったい君は僕にいったいなんのようなんだい? まさか、自分が本物だ、なんていうホラを吹くためだけにきたわけじゃ……ないよね?  あぁ、言っておくけど、偽物は黙って消えろ、というのはこの場に置いては無意味な話だよ。そんな話なら、こっちのセリフだ、と返すだけだ』 『……言われるまでもない』  森は打合せしたとおり、さらに続けていく。 『長井敏和。お前の目的はいったいなんだ? 顔をさらけ出して、演説して……何がしたい?』 『分からないのかい? 演説でもはっきりといったはずだよ。支配する側からみんなを助けるためだよ』 『その先の話のことに決まっているだろう?』 『それに関しては、さっき言ってきたよね。支配する側の人間をあぶり出すためだよ。今の僕に近付いてくるものは、何かしら裏を抱えてくる人が多いはずだ、君みたいにね。  僕は……解放者としてなすべきことをしているだけだよ。みんなを解放するために、自らの危険を晒してでも支配する側の人はみな倒す』 『……本物であるあたしからすれば、その目的はあまりに的外れに見えて仕方がないんだけど……今は言及するだけ無駄なのはわかっている。  前半部分は、”支配する側”という言葉を”本物の解放者”という言葉へ勝手に解釈しておこう。文句は言わないでよ。あくまであたしの勝手な解釈だから』 『わざわざ本物アピールをどうもありがとう。では、僕も僕で勝手な解釈をするけど、君はどうも口ばかりにしか聞こえないよ』 『あぁ?』 『君は本物だ、本物だと名乗っているが、具体的に何かやっているのかい? 僕はやっているよ。しっかりと、解放者として、解放者にあるべき行動をしている』 『……解放者と観衆の前で名乗るのが、解放者としての行動だというのならば、誰にでもできる。実に簡単そうだね』   『それだけではないよ。僕は、解放者として確かな物を得られている。皆を解放に導くための、一歩を確かに踏み出せている。  君にも教えてあげよう。僕はね……』  スマホで声だけを聞いているが、次のセリフで、あの爽やかな顔をもつ長井のこれでもかというドヤ顔の笑顔が浮かんだ。 『キングダムのリーダー、王と既に会っている』  だが、そのセリフに対して、同時に圭は鼻で笑いもした。確かに……そればっかりは長井も嘘は付いていない。しかも、本物の解放者よりも、接近具合で言えば上だろう。  だけど……長井からその話題を降ってくれるのはあまりにありがたい。狙っていたこととはいえ、本当に……。 「アリス、とりあえず軽く驚くふりみせとけ」 『……王? キングダムの?』 『そうだよ。キングダムはまさに支配形態の強大なグループだ。その長を潰せば、一気に解放へと繋がる。この功績を考えて、今の僕と君、どちらが本物の解放者だろうか?  君みたいに、こっそり僕にだけ本物の解放者だとか名乗るセコイ人では、決してできないことを僕はできたんだ。それでも君は、なおも自分が本物だと……いいはるのかい?』 『……その前のネイティブを倒したのはこのあたしだ、解放者だ』  正しくは森、お前でもないがな。 『本当にくだらない嘘ばっかり吐くね、君は。呆れるよ、誰がやったか明らかじゃないからって、勝手に人の手柄を横取りするのかい、しかも本人の目の前で。少しは恥ってのもを知ったらどうだ?』  ちっ……クソが……。 『それはお前だろうが!』  それはてめぇだろう!  にしても……ここまでとはな……。こいつの真の目的は……やはり解放者を乗っ取るということだったのか?  確かに、このままキングダムの王を倒すまで至ったら、だれもが否応無しに長井こそが本物だと認めるだろう。下手すりゃ、本物である圭たちだって、やつを本物と認めざるを得なくなる……。  だが、こちらの思惑通りにことが進んでいるのも事実。 「アリス、やつは王との接触を認めた。予定通り、頼む」  これも事前に想定していたとおり、森に指示を出す。 『まぁいい。ちなみにだけど、そのキングダムの王というのはどんなやつだった?』 『……それを君にいう必要なんて……ないよね?』 『そう……。でもね、実は本物の解放者であるあたしも既に、王の姿は見ているんだよ。ちなみに、キツネの仮面をかぶっていたよ』 『……』 『いいね。今、ちょっと反応したよね? でも、その反応を見る限り、君も王の姿を見たというのは、本当のようだね。なにより、あたしもまた、確かに王と見たという証拠にもつながりそう』 『……確証もない話だ』 『ちなみに、お前が会った王って、男だった? 女だった?』 『……』 『答えないか……、では、本物の解放者であるあたしから、偽物を名乗る愚かなお前に、一つ忠告をしておいてあげるよ』 『忠告?』 『えぇ。王と名乗るものは複数存在する。だが、本物の王はただひとり、その人物は女性。すなわち、もしお前が王だと思っている人物が男から、そいつは間違いなく影武者だ』 『……偽物のいうことを信じろと?』 『と言いながら、内心では本物であろう人物が告げた衝撃の事実に、驚愕しているんだろうね。そんな中でも演技を続けなければいけないお前に同情するよ』  長井が本当に驚いているかは、知らないがな。
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