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偽物の解放者、長井との交渉を終え、圭は一息をついた。
一通り、想定しいた通りにことは進んだ。うまくいったともう。ここは、しっかりと森の技量も認めておこう。
今回の交渉の持って行き方は、ある意味田村にやられたことから習ったものだ。田村に対して、スマホを持っていない圭とその友人次郎という設定で誤魔化しに行ったら、その点を利用し田村は逆に、圭に仕掛けてきた。
結果として、長井の側近になるハメになったわけだが。
今回も同じだ。元々、シナリオは大きく分けて二つあった。それは、長井のスタンスによる。自ら偽物であると認めてくるか、自分が本物であると言い張ってくるか。
そのうちの後者だったので、ならば逆に本物というのなら、と言って交渉の土俵に踏み込ませたわけだ。
王と偽物を戦わせる方向に。
もし、やつが真の王とつながっているというのならば、この話は間違いなく王にまで流れていくだろう。
そして、おそらく真の王としては、その要求には合わせていきたいと思うはず。真の王もまた、解放者とのエンゲームを望んでいるはず。
でなければ、偽物を作り出して、本物をおびき出した理由がない。
となれば、長井が色々工作をして交渉を行ったと見せかけて、真の王にとって準備万端なエンゲームをセッティングしてくるはずだ。
もう一つの交渉、代わりに王を倒すという選択肢もあるが、お互いにつながっている以上、そんなのはただの茶番になる。闘って勝ったと見せかけて、というのもあるかもしれないが、それでも結局は変わらない。
本物の解放者も健在だし、真の王も健在、無意味だ。
そういったことから、真の王と長井につながりがあるなら、ほぼ間違いなくセッティングをしてくるはず。少なくとも、この状況を利用して、真の王は間違いなく動いてくる。
そして、もうひとつの可能性。真の王との関わりはなく、ほかの目的があってなのか、それ自体が目的かは知らないが、解放者を乗っ取るという話。
今回の表向きの話から純粋な裏を取れば、その可能性もまた確かに浮かび上がってくる。あくまで自分が本物であると言い張ってきた理由にもなる。そうなった場合は、おそらくやつは本気で王を倒しにかかるだろう。
ここで王を長井が倒せば、実質本物は圭ではなく長井になると言っていいからだ。そして、またそれはそれでも構わない。こちらの目的はあくまで真の王を倒すということ。
それができるのであれば、そこに手段を選ぶ必要はない。ましてや、悪に走る道でもないのだから、文句はない。
完璧だ、やつがどっちに転んでこようと、キングダムの王に近づける。もはや、長井などどうでもいい。長井の目的がどうであれ、こっちは真の王倒せばそれでいいんだ。
あいつには……真の王との道をつなぐ足場になってくれればそれでいい。
『ボブ、交渉は終わったよ。これで良かった?』
長井が完全に教室を出て行ったことを確認してくれたらしい森が、時間を置いて通信をしてきた。
『上出来だ。いい責め具合だった。思い取りの結果になったよ』
『それは良かった……。にしても、長井……。本当にイライラしたよ。本当に、よくまああそこまでベラベラとわかりきった嘘を平然と並べ続けられるよ。
恥ずかしくないのかな?』
『まぁ、真の王とつながっていたのだとすれば、それもまた王からの強制的な指示だったかもしれないがな。まぁ、安心しろ、俺のイライラはした』
そこに関してはマジのマジだ。もし、その場にいたのなら、あの爽やか顔面にパンチを入れたかったよ。さぞかし気持ちいいことだろう。
あくまでも秘密裏の組織、解放者として動いてきたゆえに、圭たちが解放者である証拠もまた残っていない。証拠を突きつけて、どうだといいはることもできないというのは、少しばかり癪ではあるな。
無論、その証拠がない現状は、解放者として非常に望ましいことではあるが。
『まぁ、ひとまずご苦労様と言っておこう。あとは、長井敏和の新たな側近、小林圭とかいう俺がやつの動向を測っていくだろうよ』
『……頼むよ』
それから、次郎には現状報告をしておいたが、田村には現状の説明をひとまず置いておいた。
今回の話は、どうしても長井の側近、小林圭の繋がりが入ってくる。なにより、現状、小林圭は知っていても、解放者ボブは知らない情報が結構出てきている。この状況で、変に田村と話すのは厄介なことになりかねない。
大体、ここ最近、田村の動きが見られない点もある。小林圭と解放者ボブに任せて、結局あいつは何をしているのか……。
あいつ、そこまで役にたった気がしないぞ……。
いや、そこに関しては、あくまで解放者ボブと小林圭が同一人物であるからそう思えるだけなのか……。解放者ボブとしては、圭から通じた田村の話は有益な情報ということになるのだから……。
なんなんだよ、この状況……。マジで下手に田村へツッコミも入れられないじゃないか……。
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