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圭はその後、長井からの連絡を待ったが、その日にかかってくることは流石になかった。といっても、次の日でも来ることはまるでなかったが……。
まぁ、でももし、長井が真の王と繋がりを持っていなかったとしたら、やつをエンゲームの場に引き出すのは間違いなく至難の技。逆に繋がりがあったとしても、繋がりを隠すためにわざと引き伸ばす可能性はある。
だが、それでもやつから連絡は来るはずだと考えていた。なぜなら、影武者の王と直接あったのが、長井と圭なのだから。圭を本物の解放者と睨んでいる可能性も含めて、呼ぶ選択肢しかない。
その予想は当たったらしく、森の接触から数日後、圭のスマホに連絡が入ることとなった。
『やぁ小林くん。お久しぶり』
『……久しぶり……なんですかね』
明るい雰囲気で挨拶してくる長井に対し、電話越しに首をかしげつつ答える。
『まぁ、君にわざわざ電話するというのは、君もお察ししているだろう。また君に頼みたいことができた』
……来た。
『解放者の手助けになれることであれば、どんなことでも』
丁寧に言葉を選びセリフを作り上げる。
『頼もしいね』
対して長井も笑いも含みつつ返してくれた。
『ところで、君は当然覚えているよね。キツネの仮面をかぶった男のことを』
『えぇ。王って名乗っていた人のことですよね? 先輩が言う支配する側の人ってやつ』
『そうそう。その彼について、すこし頼みがあるんだよ。是非とも協力して欲しい。また、場所時間は指定するから、よろしく頼む』
想定通りだ。
その約束通り、数日後再び圭は長井と出会った。
「さてと……早速だけど、単刀直入にいうよ。君は、あれからあの王と名乗る人物から連絡が来たりしたかい? また接触とかは?」
が、あって真っ先に出されたその質問に対しては、流石に圭とて戸惑いを見せざるを得なかった。
「ど……い……いきなり何を? ……俺に来てると思います?」
「可能性として、なくはないと思っていたけどね。君も同じ場にいたんだ。ストレートに行かず、変化球で攻めるなら、僕ではなく君から近づく可能性もあるのかと思っていんだよ」
「そ……そうですか……。でも、残念ながらそれはないですね。俺はてっきり、また王から連絡があって、俺を呼び出したのかと思っていたんですけどね。
その感じだと……先輩もまだ、あれから進捗はないってことなんですか?」
「……まぁ、王との接触に関してはね。また、連絡を来るとは言っていたけど、その気配はまだ感じられない」
「そうですか」
これはどういう意味で言っているのだろうか。真の王と繋がりがあるなら、これは演技になるが……。
……せっかくだ。この場で、ひとつカマしておくか……。
「ところで、先輩……。もうひとり疑っているって言ってた、あの女子生徒のことなんですけど……。特に先輩から言及してくるようなことはなくなりましたよね? 動向を探る件については、これからはどうしたらいいんですか?」
「ぁぁ……そのことなら、ひとまず保留にしてくれていいよ。今、僕はそれどころではない状況に立たされているからね」
確かに、それどころではない状況ではあるか……。しかし、こうも真っ向から……。もちろん、表向きに疑いが晴れたとは言っていないが、ここまで来ると疑いが薄くなったと言っているようなものだろう。
少なくとも、こいつは亜壽香の姿に扮装した森を見てなお、亜壽香との関わりはほぼないと考えている……。
ということは、事前の策から照らすと、こいつは元から亜壽香への疑いは圭に比べてかなり薄かった……。本物の解放者を知っている真の王との繋がりがある可能性が高まった。
「それどころではない……状況ですか……。ちなみに俺に頼みたいことは、王に接触していないとしても、できることなんですか?」
「……う~ん……まぁ、難しいね。一言で言えば、王との接触を手伝って欲しいということなんだけどね。
色々事情が有って、こっちから彼に接触する必要が出ていたんだよ」
……真の王とは繋がっていないというアピールか……。
「打倒王の目標を掲げ、動き始めるってわけですか?」
「そういうことだね。新たな解放者の一歩を踏み出すには、王と接触し、倒すのは大前提の話となる」
……その王が偽物……影武者であることは言わないのか……。
「といっても、難しいですよね。少なくとも、俺は仮面をかぶった正体も明かしてないやつにこっちから近づく手立ては思いつかないんですけど……」
「いや、ないこともないよ」
……っ!?
長井は指を一本、圭に見せるように立てた。
「また、引っ張り出せばいいんだよ。君も会っていないというのならば、仕方ない。僕はもう一度、演説を行おうと思う」
「……なるほど」
確かに……その方法は、既に顔をさらけ出している偽物ならではの方法だ。本物の解放者には到底真似できない。
「今度ははっきりと、王に向けて、宣戦布告を行うつもりだ」
やはり、長井に王とのエンゲームをけしかける方法は間違っていなかったらしい。こいつなら、本当にやってのけるかも知れない。
そして、なにより演説をすることで、本物の王、圭たちに真の王との繋がりはない、あくまで全力でエンゲームのセッティングをしているように見せることも可能。
……お見事。
「……しかし、その話なら……俺を呼び出した理由が……。その話だけなら、そのまま電話ですませば良かったでしょう?」
その疑問に対し、長井はそっと圭の肩に手を置いてきた。
「必要だよ。君は王を引き寄せるための餌になってもらう。確実に王をお呼び寄せるためのね」
そう、優しい声で言ってきたのだ。
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