第3章 偽解放者の側近で

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『また、随分と大きく動き始めたね』 『真の王に向けて動き出したわけか』  森と次郎のLIONチャットを見ながら圭はひとつ息を吐いた。  演説に向けて例の解放者会議だ。 『でも、ここで演説して王をおびき出すというのなら、やっぱり真の王との繋がりはないと考えられるんじゃ?』 『どうだろう? ここまで大きく出してきたんだよ。繋がりがないようにわざと見せかけているとも思えてくるよね?』 『なるほどね』  そうやって次郎と森が議論をしていたが、やがて圭に向けられたであろうメッセージが入ってくる。 『ところで、今回は俺たち、どうすればいい?』  次郎からきたメッセージだ。 『今回は特になにかしてもらうことはない。俺も今回の演説は堂々と聞けるようになったからな』 『わざわざ通話を入れておく必要もないってこと?』 『そうだな。アリスは友人となり、一人でなり普通に聞いていればいい。むろん、次郎も』  そういった簡単な会議が終了。日時は演説の時となっていった。  圭は授業が終わると次郎と一旦別れ中庭、フライハイトが見える廊下窓に陣取った。一応、圭が長井に手を貸していることは次郎には内密となっている。そうである以上、圭と一緒の行動はできない。  前の演説よりはかなり人は減っているように思える。それでも一定数以上の人だかりができていることは事実だった。  長井が解放者としての初演説を行ってから一ヶ月以上の時間が過ぎていた。だが、その間特に目立った解放者の噂は広がらなかった。  当然、本物の解放者はそれからさらに解放を勧めたわけでもないし、偽物長井も解放などしていないのだから。  今の校内にいる人たちはみな、解放者という存在についてかなり疑いを強めに持っているのではないだろうか。結局何も起きないじゃないか、変わらないじゃないか、という不満が募っているのだろう。  それを、この演説を聴く人数の減少が示しているといえる。この状態で圭が嘘でもいいから長井のマイナスなイメージを噂で流したら、さらに信用度は落ち込むだろう。  その後ろ盾があったからこそ、長井と交渉できたわけだが……。  中庭を中央に人だかりが大きくざわめき始める。ついに長井敏和と例の側近二人がフライハイトの中央に現れたからだ。  さて……どうくるのか……拝見させてもらおうか……。 『……皆さん、お集まりいただき感謝する。皆さんご存知のとおり、わたしは解放者、全てを救うものである』  普段の長井とは打って変わって力強い言葉で挨拶をかます。 『我々解放者は前回の演説より水面下で解放者として動きを重ねてきた。内密であるため皆の耳にまで通っていなかったかもしれない。しかし今、我々は、解放に向けての大きな一歩を歩もうとしている!  そして、その一歩を踏むために、今回ある人物に話をしなければならない。そのため、この演説をわたしは行っている。  その相手は……王……あなただ! 聞いているのだろう?』  この長井の言葉とともに、フライハイトとその周りにいる生徒が大きくざわつき始めた。当然、圭の隣にいる見知らぬ生徒たちも。 「……王……王って?」 「キングダム……」 『既に何人もの人が口々にいっているがそのとおり。支配するもの、グループ:キングダムのリーダー、王のことだ!  我々はキングダムの王と、既に接触をしている。そして我々は王と再開したいという思いがある』  想定通りの演説が繰り広げられていった。実際、この演説は王も……少なくとも王に関わる人物もまた聞いていることだろう。 『といっても、王本人からしたら、この誘いに乗る理由はないと鼻でわらっているかもしれない。が……、無論そんな安い提案などはせん』  そう言って長井はポケットからスマホを取り出し、上に掲げた。 『先日、王と接触したときだ。あの時、わたしのとなりに居たのは誰だった? 今のわたしの横にいる二人ではなかったことだろう?  その意味……分かるかな?』  ……。 『キングダムのリーダー、王よ。君の顔は取らせてもらったよ。あのあと、わたしのとなりにいる二人に王をつけさしたからね。おかけげ、君の正体を知ることができた』  ……マジで?  いや……そんな風な感じは一切なかった。フェイクか? いや……もしとっていたとしても圭にわざわざ知らせる必要はなかったか……。大体、真の王とつながっているならば、これも演技……。 『無論安心していい。この場でこの写真を公開なんてことはしないよ。もちろん、これを公開してしまえば、君の立場は一気に地へと落ちるだろうが、わたしの望みはそこではないからね。  これはちょっとした交渉だよ。ぜひ、わたしの言うとおり、会いに来て欲しい。無論、黙って公開しろ、というのならばそれでもいいのだが? 王は今すぐ、声を張り上げて、どうぞ「公開しろ」と叫んでくれたまえ』  ……口もうまいな……。さっきの言葉で、例え隠撮写真がフェイクであったとしても、それを簡単には指摘できない。それは、本物の王も、普通の民衆も。
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