第3章 偽解放者の側近で

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 演説中、スマホを掲げ王に対し責め立てる長井。スマホの中には王の正体を収めた写真があるという脅しだ。  だが、この策には問題点が大きく二つある。  ひとつは、その写真が偽物……というか、ハッタリである可能性が十分すぎるほどあるということだ。王自身がそれは絶対にないと思い貼ればその時点で無意味。  といっても、本当に取られていないという証拠にはならない。もしもの可能性をもって交渉を飲んでくることもあり得るかもしれない。  だが、もう一つ問題点がある。これは致命的だ。それは、その王の正体というものが結局はただの影武者であるということ。いくら顔がバレようが影武者ならば真の王にとってすれば痛くも痒くもない。  むしろ、最大限に影武者を利用できたことを喜ぶだろう。  しかし、このことは長井も知っているはずだ。あの場では否定していたものの、内では実際に会った仮面キツネ男は影武者である可能性を持っているはず。  であれば……ここでは終わらない……。 『このスマホの中にある顔はわたしの交渉に応じなかった場合、さらされることになる。十分に注意することだ。ちなみに、刺客を送りつけてわたちたちの証拠写真を封印するように仕向けても無駄だ。  王、君も知っているだろう。ここにいる、もうひとりの側近のことを。彼はコントラクトを持っていない。我々が封じられた場合、彼に流してもらうように支持している。彼を止めるのは不可能だよ』  ……と、長井はいっているが、圭はそんな話ひとつも聞いていない。その時点で写真がフェイクなのは明らかだろう。  この話にだんだん周りにいる人たちが困惑をし始めた。当然だ、今長井が行っているやりとりは、王と長井とその側近しか知りえない情報だもの。この話が続くことによって、チラホラとこの場を離れていく生徒も見受けられ始める。  だが、それは問題もない。長井の対象相手は今や王のみなのだから。逆にここに残っている者の中の誰かが、王または、王に関わる人物。むろん、それでも数は十分いるため、特定は無理だろうが……。 『ちなみに、……もしかしたら、今頃、王は鼻で笑っているのかもしれないね。だけど……そのうすら笑いは直ぐに消してやる!』  ……。 『王、お前は今、余裕な顔でこの演説を聞いていることだろう。自分が用意した偽物の王に踊らされている解放者にね。だが、残念ながら我々はわたしの前に現れた人物が偽物であることを知っている。その上で、この行動に出ている』  きたな……偽物……影武者……。 『我々は偽物の情報を手に入れた……というよりは……はっきりと言おう。ある人物からこの情報を得た。この意味、本当の王ならば分かるだろう? ある人物とは誰ことか、分かるだろう?』 「……っ」  こいつ……王にしか分からないやり方で、本物の解放者との接触したことを……王に伝えた? ということは、森との接触で長井は、森が本当に本物であることの確証を得るために、極限まで嘘を突き通したとでも?  実際、既に影武者の王には、長井が偽物であることは実質バレている。今更隠す必要もない。 『王よ、解放者と王は既に幾度となく戦いを交えてきた。そして、今の王にとって我々解放者は何としてでもねじ伏せたい、倒したい存在である筈だ。  そいつは……来るぞ。王の前に、お前が欲しているやつを連れてきてやろう』  こいつ……餌にしたのは……圭などではない。解放者……本物の解放者を餌に……しやがった……。 『王よ、三日後の放課後、このフライハイトにて待つ。今回は別に偽物をそのまま向かわせてくれてもいい。  王、お前が望む相手を用意して待っておく』  と、ここで長井はひと呼吸おいたかと思えば、急に顔を空に向けた。 『さてと……おい、聞いているだろう』  ……なんだ、唐突に? 『君だよ、君』  空に向けて指を向ける長井。 『君の望んだとおりだ。当然、君も来るよね? 本物だものね?』  ……そういうことか……本物の解放者も、……解放者アリスも、同じように三日後、フライハイトにこいと……言っているのだ。 『以上だ、ここにいる大半の方々には理解できない内容であったことは謝罪する。だが、これは……最初にも言ったとおり、解放に向けた、全ての人を救う道を歩むための、大きな一歩であることを受け止めて欲しい。  皆よ、わたしの存在に希望を持て! 我々は動き続ける!』  こうして、演説は終了していった。当然、周りにいた人たちの顔には疑問の表情が溢れ出ていた。無論、圭も周りに合わせて首をかしげつつその場を離れていく。  だが、この中に圭と同じように演技をしているものがいるはずだ。裏に王という存在を隠し、次はどういう一手を打とうか考え始めている奴が。  本物の解放者に対し、鋭い眼光を内で向けている奴が……。  改めてここまで来ては、長井が真の王と繋がっているのか逆に怪しくなってきた。もし、繋がっているとしたら、あまりにクサすぎる。ここまでの実質自演とも言える演技を畳み掛けてくるだろうか。  だが、どちらにしても王はおそらくフライハイトに来る。やつの目的が本物の解放者である以上、やつは……必ずくる。  勝負どころは……近いな。
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