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穴があったら入りたい。僕は今、心からそう思っている。いつの間にか現れた背のひょろ長い男の……おそらく先輩であろう人との間で膠着状態が続いていた。さっき話かけられて以来、黙っている。僕はどうしたらいいかわからず固まっていた。一方、相手のほうはこちらを見てニコニコと笑っている。どういう意味の笑みなのかまったく読み取れない。
「君、部活入ってる?」
先輩は言った。変わらず微笑している。僕は突然のことで内容を理解するのに少し時間がかかった。
「は、入ってないです……」
僕の声はびびっている上に掠れていた。
「じゃあ、うちの部に入らない? あ、まずは見学してもらおうか」
先輩は一人で勝手に話を進めていく。そして、手招きしてマイペースに歩き出した。断る間も与えられず、仕方なく後をついて行くしかなかった。部活勧誘なんて中学の時も一度もされなかったので、正直どぎまぎしている。そもそも何でこうなったのだろうか。さっきの一言を思い出した。
―いいフォームしてるね。
言葉の意味を逡巡する。フォームを気にする部活っていったら運動部だよな。そういえば靴を投げつけているところを見られたんだった。投げるスポーツはもしかして……野球部! 期待に胸を躍らせていると、中庭で先輩が立ち止まった。
「紹介するね。これが僕たちの部活」
先輩の背後には、色とりどりの物体を投げている十数人の生徒たち。いや、投げているというより飛ばしていると言ったほうがいいだろう。
手にあるものは
「紙ヒコーキ部だよ」
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