第3羽 ただただ墜ちていく

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第3羽 ただただ墜ちていく

 身体が強い力でプールのフェンスに叩きつけられる。あの後、プールサイドに連れてこられ、今も拷問の最中だった。 「最近全然遊んでくれないと思ったら、お前部活入ったんだって?」 「何部だっけ?」  不良たちはへらへらと笑って言った。黙っていると、不良の一人が僕の髪を鷲掴みにし、無理矢理立ち上がらせる。頭が痺れておかしくなりそうだった。 「言えよ」  不良たちはこちらを睨んでいた。威圧と苦痛に耐えかねて、僕は小さくつぶやく。 「……紙ヒコーキ部」  途端、不良たちは声をあげて笑い出した。汚い声が耳をつんざいて目眩を覚える。 「紙飛行機飛ばすお遊び集団ってか?」 「そんな子どもの遊びより俺らとまた遊ぼうぜ!」  言葉の勢いのまま頬を殴られ、地面に転がる。  また地獄に引き戻されるのか……。暗い沼にはまっていく。唇が切れてピリピリとした痛みを感じた。感覚が麻痺しているのか上下もわからなくなっている。それを教えてくれているかのようにブレザーの内側に隠していた紙飛行機が落ちた。不良はそれを手に取った。 「辞めるんだからいらないよな」  そう言って、紙飛行機を乱雑にプールの方に投げた。 「あ、ダメ!」  つい声が出た。と同時に体が紙飛行機に吸い寄せられた。ゆっくりと落下していく。僕は必死に落下地点に手を伸ばした。  落としちゃだめだ! 部長の大切なものを……!  巣に帰ってきた母鳥のように手に収まった。ほっと一息つこうとした。が、プールに落ちそうなくらいギリギリの位置にいることに気づいた。落ちないように重心を後ろに寄せた瞬間、背中に圧力を受け、地面から足が離れた。身体は宙に放り出される。強引に身を捩り後方に目を向けると、不良の一人が足を出しているのがわかった。落ちる。その瞬間、無意識に手が動いた。紙飛行機は水面すれすれを飛んで、静かにプールサイドに着地する。僕の身体は水飛沫をあげて冷たい水の中に入っていった。満たされた清らかな水とは対称的に不良たちの笑い声が反響して視界が歪む。焦って手足を動かすが、よけいに沈んでいく。その時、思い出した。自分が泳げないということを。水泳の授業ではいつも一番下のクラス。つまりまったく泳げない。必死に顔を水の外に出して不良たちの後ろ姿に助けを求めるが、 「待っ……ゴブッ……たす……ガボッ」  揺れる水面に顔が上がったり浸かったりしているので言葉として成り立っていない。不安が体を侵食していく。重くなっていく。体力も限界にきていた。あ、やばい。そう思ったが、脳からの命令は手足に伝わらなくなっていた。沈んでいく。空は青く綺麗だった。揺らめく青空にピンク色の鳥が飛んでいる。優しい色が混ざり合った瞬間、意識が急激に薄れていった。
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