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天王洲は、やはり誰にでも優しく人気者と呼ばれるに相応しい男だった。
そんな男に、「名前をやっと呼んでくれた」と言われた俺は、優越感を通り越して何だか特別な感情が心の奥に宿っているのを感じていた。
その感情に言葉を付けたら“危険”。
そう感じたが、この胸の高鳴りは何だか押さえられそうになかった。
やがて、一軒家の天王洲の家へと辿り着く。
俺の家は、同じ学区内だがもう少し先のブロックだ。
クラスメイトであれば、何気なく話す他愛もない会話でも『秘密』を共有する程仲良くなれたことがつい嬉しくて、別れ際が名残惜しかった。
それは、俺だけでなく天王洲も同様みたいだった。
家の前で立ち止まって会話が続いたことで、それが証明されていると感じた。
程なくして、家のドアから天王洲によく似た美人の中年女性が出てくる。
俺は今日その女性に初めて会ったが、相手はいつも会っているかのような親しみを込めた態度で話し掛けてきた。
「あらぁ、清瀬君じゃないの。いつも、悠慎がお世話になっていて……」
「おふくろ、下がってろよ!」
恥ずかしそうな表情で、“おふくろ”と呼んだ女性に引っ込むようぶっきらぼうに話す。
教室では見ない話し方に、クラスでは格好つけてることが分かる。
「うちの悠慎ね、清瀬君のこといつも家で話してくれてね。また、同じクラスになった、って喜んでたのよ。これからも、ウチのをどうぞ宜しくね」
母親からの予想外の言葉に、思わず俺は赤面してしまう。
……話したことが無かったのに俺のこと、日頃から話題にしてくれてた?
「バ、バカ!そんなこと言うなよ!!」
そう言う天王洲も、顔が赤くなっていた。
「まぁ、親になんて口の利き方なの?酷いでしょー」
ホホホ、と天王洲の母親は笑いながらドアの向こうへと消えた。
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