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「じゃ……じゃあ、天王洲またな」
お互い赤面したままの、微妙な恥ずかしさが漂った空間から先に脱したのは俺の方だった。
「あぁ」
そうハニカミながら、天王洲はドアの向こうへと消えて行った。
それ以降、俺たちがこうして一緒に肩を並べる機会は1度足りとも訪れることは無かった。
教室でも相変わらずの距離感で、俺は独りだったが、あの日の天王洲の言葉で、不思議と孤独を感じることも無くなっていた。
中学3年生になると、天王洲に学年で1番可愛い彼女ができたらしい……
そんな噂を耳にした。
サッカー部期待のエースである上、見事なまでに極上の男へと成長を遂げたアイツに、彼女が出来ることは当然の流れだ。
男の俺とどうこう、なんてアイツの順風満帆な経歴に汚点を残すだけだ、そう素直に思った。
その上、あれから会話すらまともに交わしていない俺には、悔しいけれど何も言える権利は無かった。
だが、同時にこの時ほど自分の行動力と度胸の無さを悔いて止まなかったことは無かった――。
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