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無事に卒業式を終えた俺は、卒業生たちの群れから独り遅れて、卒業証書片手に体育館から教室へと続く渡り廊下を歩いていた。
春の爽やかな風が、全身を通り抜ける。
俺は、あまりの心地良さに独り感傷に浸る。
とは言っても、結局中学時代と何も変わらないダメな3年間だったことに自嘲した。
すると、不意に背後から声を掛けられる。
「清瀬君!」
「え……?」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには天王洲の母親が立っていた。
「お久しぶりです。悠慎の母です」
上下ベージュのスーツに身を纏った、天王洲似の美人の母親は、俺へと深々頭を下げる。
「あ、こんにちは……」
まさかの人物に呼び止められた俺は、戸惑いを隠せず固い表情で挨拶をする。
「悠慎を今までありがとう。悠慎がね、いつも頑張ってる清瀬君を見て、ずっと支えられていたんだって。サッカーもそのお陰で、ずっと頑張れたって。そして、清瀬君のこと……ずっと気になって心配してたって」
「え……?」
高校でも、あまり絡みの無かった天王洲がまさか俺のことをそんな風に見ていたなんて思わず、戸惑いを隠せない。
「俺、本当……何もしてないんです……」
思わず、正直に本音を呟く。
「清瀬君はそうかもしれないけれど、ウチの悠慎はだいぶ清瀬君に助けられたみたいよ。
ウチのは、東京に行っちゃうけど良かったらたまにはウチに顔出しに来てね。ウチの家族、皆清瀬君に会えるのを楽しみにしてるから」
天王洲の母親はそう言うと、もう一度軽く会釈をして俺の横を通り過ぎて行った。
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