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「急ぎというか、父様の仇を討ちに来たの。こんな状態じゃどうしようもないけどね」
「君の父親って……」
ふと、彼の視線が私の角に向かい、瞳が陰る。
魔族でも分け隔てなく親切にしてくれた青年だが、こんな話を聞かされてはそうもいかないだろう。
ここから出た方が良い。
私がお礼と別れの言葉を告げようとした時、彼は柔らかく、だけど泣きそうに微笑んだ。
「魔力が戻るまでここにいると良いよ。もちろん、君が嫌じゃなければ」
追い出されると思った。
この国の英雄を殺しに来た、と私は言ったのだ。
拘束されて殺されたって不思議じゃなかった。
なのに彼はノアと名乗り、婚約して家を出たという彼の兄の部屋を貸してくれた。
深入りするはずじゃなかったのに、私もミアと本名を告げていた。
下心などを懸念するのが馬鹿らしいほど、彼は真摯で優しくて、私の事を村の人たちに黙っていてくれた。
だから私は油断してしまったのだ。
私が人間たちには受け入れ難い魔族である事を忘れてしまっていた。
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