うらめし太郎

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 この日もいつものように木製の船を漕いでお気に入りのポイントで竿を垂らした。どんよりとした天気で波が少し時化ていた。(今日はコンディションが悪いな。市場で売れるほどの釣果はないが、家族で食べるには十分な量は釣れた。今日はここらで引き揚げよう。)太郎の腕前からすると、普段はもっと大量に釣れるのだが、この日は天候が悪いせいか通常よりも魚が釣れなかった。  浜へ戻るため、船を漕いでいると、太郎は少し先のほうに大きな黒い影を見つけた。(あれはなんだろうか。)船を漕ぐ手を止め、じっくりとその影を観察した。黒い影はゆっくりと太郎のほうに近づいてくるようだった。魚にしては、巨大すぎる陰である。クジラの一種かとも考えたが、海面で潮を吹く様子も見られない。(あんな巨大生物に追突されたら船ごと沈んでしまうぞ。)太郎は焦って船を漕ぐ手を速めた。必死になって船を漕いだおかげで、巨大な影に追いつかれることなく、無事に沖に帰ることができた。
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