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くたくたになりながら沖へたどり着くと、なにやら少年たちが大勢集まっていた。太郎は不思議に思い、子供たちのもとへ歩み寄った。すると、こどもたちが浜で動けなくなっているウミガメをいじめているのが目に入った。蹴飛ばしたり、甲羅の上に乗っかったりと散々な光景だった。
「君たちいったい何をしているんだ!そんなことしたらカメがかわいそうじゃないか!やめなさい!」
「やだよ!このカメは俺たちがつかまえたんだぞ。何したってかまうものか。」
「カメも痛がっているだろう。そのカメをお兄さんに渡しなさい。」
「タダでカメを渡すものか。そうだ、その籠の中に入ってる魚をくれたらこのカメをあげるよ。」
太郎は、沖に出て苦労して釣った魚であったが、ウミガメを助けたいという思いから、その条件を飲むことにした。
「分かったよ。釣ってきた魚を君たちにあげるから、さあそのカメをこっちによこしなさい。」
「わーい。こんな食っても美味しくないカメなんかより魚のほうがずっといいや。みんな帰ろうぜ!」
子供たちは太郎から魚をもらい満足げな様子で帰っていった。
太郎は、今晩のおかずがなくなってしまったが、ウミガメを救えたことに満足をした。
ウミガメは太郎をしばらく見つめていた。その目はニッコリと笑っているように感じた。太郎は弱って動けなくなったウミガメをそっと持ち上げて海に返してやった。
「もう浜になんか来ちゃだめだぞー。気をつけて帰るんだぞー。」
太郎は海水につかり元気を取り戻したウミガメが沖のほうへ去っていくのを見ながら叫んだ。
ウミガメを海に返したあと、家族が待つ家に帰宅した。
「ただいま。」
「お兄ちゃんお帰り!今日は何が釣れた?」
太郎が家に帰るとすぐにお腹を空かせた弟たちがそばに寄ってきた。
「ごめんよ。今日はお魚は釣れたんだけど、浜でウミガメをいじめている子供たちがいて、お魚と引き換えにウミガメを助けたんだ。」
太郎は今日の出来事を正直に話した。
「あんたは本当に昔から心優しい子だね。あきれるぐらいに。」
母親は、またかという表情をみせながらも太郎の性格を理解してくれているように言葉をかけた。
この日は、おかずはなく、白米だけを家族みんなで食べたのであった。
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