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「ほらほら頑張んな。あと一息じゃねえか」 「ふーっ、ムリムリ。もうムリだって。うぷっ」  店主の柳原の言葉に、学生らしい巨漢の男がカウンターの椅子の上でのけぞりながら答えた。太った尻が座面からはみ出している。 「なんだよ、情けないな」 「もうちょいなのに。がーっといっちゃえよ」  巨漢の男と一緒にいた友人たちが囃し立てる。 「お前らもやってみろよ。ぜってえムリだから」  友人たちの無責任なヤジに、大男が苦しい息をつきながら顔をしかめた。 「じゃあ、ギブアップってことでいいな。お代は三千九百八十円。毎度、またどうぞ」 「もう二度とやらねえよ」  巨漢の捨て台詞を受け流し、柳原は上機嫌で代金を受け取った。  ここはラーメン花柳龍(はなやぎりゅう)。東京郊外の私鉄駅前の商店街に新規開店したばかりのラーメン屋だ。
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