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「柳原さん、うまいことやってますね」  カウンターの隅で今までのやりとりを眺めていた男が笑って言った。花柳龍の隣の八百屋八百八(やおはち)の主人、高橋だ。笑うたびに禿げ上がった頭に店内のライトが反射してぴかぴか光る。 「どうも、お陰さまで」  他に客がいなくなった柳原は真新しい前掛けを取ると高橋に笑みを返す。 「新装開店記念で特盛チャーシュー麺三十分以内に完食で無料とは、いい客寄せを考えたものです」 「開店一週間で今んところ完食者なし。話題にはなってくれてるみたいで、ありがたいことです」 「それにしてもすごいもんですなあ。その器、丼なんてもんじゃないですよ。私の知り合いに、そんなのに水張ってメダカ飼ってる人がいる」  高橋が三分の一ばかり麺とスープが残った器を眺めながら言った。白くどろりとしたスープの表面にはこってりとした背脂が浮いている。 「ははは、なにしろ園芸品店で買ってきたってシロモノですから」  この器いっぱいのラーメンに、麺が見えなくなるほどのチャーシューを敷き詰め、その上に塔のようにそびえ立つモヤシを盛っていたのだ。並大抵の量ではない。 「ま、近くの大学の体育会系の学生が面白がって挑戦してるだけなんで、これもいつまで続くか分かりませんがね」  柳原が続けて言った。 「私は普通のラーメンを頂きましたが、いいお味でしたよ。今は話題先行でも、そのうち行列のできるような人気店になるかもしれません。そうなればこの商店街の活性化にもつながりますからね。頑張っていただかないと」 「いやあ、恐れ入ります」  高橋はこの商店街の商店会長を務めている。郊外の商店街のご多聞に漏れず、国道沿いの大型ショッピングモールに押されて苦戦を強いられているのだ。 「おっと、いらっしゃい」
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