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「へい、お待ち。特盛チャーシュー麺、三十分以内に完食で無料ですぜ」  盛大に湯気の立つ、水盤のような器を客の前にドンと置いた。カウンターの中にいる柳原からは、湯気と器ともやしの山に隠れて小柄な客は見えなくなりそうだ。 「ひゃー、これはまた、どえらいシロモンでんなぁ。あはは、さすがにこれは無理でっしゃろなあ」  客は大仰なほどに驚いている。 「こりゃたまらんわぁ、でも、まあ取り敢えず……いただきます」  丁寧に手を合わせると、客は箸を取った。 「ずず、ずぞぞ……こりゃ、また、ずぞ、ずぞぞぞ……結構なお味で……ずぞ」  客は急ぐわけでもなく呑気に麺を口に運び始めた。 「ずぞぞぞー、ずぞぞぞー。東京にでてきて、ずそ。こんな旨いラーメン……ずそ、はぐはぐ、ずぞぞ。食べられるとは、ずぞ。思いまへんでしたわ」  客の食べっぷりを眺めていた柳原と高橋の表情が次第に変わっていく。べらべら喋りながら麺を啜るペースが一向に落ちないのだ。むしろ次第に加速していく。 「んぐ、んぐ、んぐ……ぷぅはあ、こら堪らんわ。ごちそうさまでした」  こってりとしたスープまで一滴残らず飲み切って、客はまた丁寧に手を合わせて頭をさげた。  柳原と高橋は、あんぐりと口をあけたままそれを見守るばかりだった。 「じゃあ、おおきに。しばらく東京にいてますんで、またお邪魔しますわ」  客はそう言い残すと、店を出て行った。
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