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 再び例の客が花柳龍の暖簾をくぐったのは三日後の昼過ぎのことだった。柳原は慌てて奥に入り、携帯電話で高橋を呼び出した。幸い店にいたらしい高橋はすぐにやってきた。 「おや、この間のかたもいらしたんですな。先だってはご馳走になりました。今日のところはちゃんと客として普通のラーメン頂きますわ」  客は高橋がやってきたのに驚いたようだが、柳原に目をやると笑って言った。 「いや、そう仰らず、もう一勝負お願いできませんか。こ、今度は二杯で三十分。その代わり食べきれたら無料の上に賞金一万円、残したら罰金一万円」  柳原の声は若干震えている。 「ひゃあ、それはご無体ですわ。いくらワイかて二杯はあきまへん。どうかご勘弁を」  客は目を丸くしてぶんぶんと首を振る。 「そこをどうかひとつ。この通り私からも頭を下げますんで」  高橋が頭を下げた。禿げ頭がちらりと光る。 「参りましたなあ。なんや勝ち逃げするみたいなのも寝覚めが悪うおますしなあ……じゃあ、今日のところはこの前の儲けを返すつもりでやってみまひょか」  客は泣きそうな顔で答えた。店内にはこの前と同様三人だけしかいない。今度は初めて出す二つ目の器も用意されている。    ドン、ドン  客の目の前のカウンターに特盛チャーシュー麺が並んだ。 「これは、えらい量ですなあ。とてもあきまへんわ。でも、まあ取り敢えず……いただきます」  例によってバカ丁寧に手を合わせて箸をもつ。  そこへたまたまやってきた別の客が目を丸くしてのけぞった。カウンターについたものの、この状況に驚いたのか注文も忘れて見入っている。  一方、柳原と高橋の食い入るような視線も一杯目のラーメンに注がれる。
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