29人が本棚に入れています
本棚に追加
AM8:50
チャイムの音が、講堂に響きわたる。
ーーー入学式の、はじまりだ。
言い忘れていたが、僕には今日、大切な役目がある。新入生代表としての、挨拶だ。
200人いる生徒のうち、僕だけが行う役目。うん、平凡だな。いつも通りだ。
それでも、いくら、いつもやっている役目でも、やはり緊張する。
「ただいまより、令和元年度、大門寺学園入学式を挙行致します。」
式進行の先生の声が聞こえた。
ドクッドクッドクッ…
心臓の鼓動が早まってくる。あと少し…あと、少しで……
「次に、新入生代表の挨拶です。」
ドクッ…
「大門寺三鶴君、よろしくお願い致します。」
ドクンッ……あんなにもうるさかった心臓の音が、止まった。
「はいっ!!!!!」
勢いよく立ち上がり、壇上へと向かう。講堂にいる199人の新入生の目と、親、先生、官僚、そして、お祖父様の目が、僕のことを見ている。
壇上の中心、マイクの前に立って、息を吸い込み、僕は思った。
とっておきの、緊急を静めるおまじない。
「僕は今、とっても平凡だけど、かっこいいんだ。この学園の、王子様みたいな存在なんだ。きっと。」
念のため、もう一度言っておく。
僕は、ナルシストじゃないぞ。これは、代々我が家に伝わるおまじないなのだ。効果は抜群だよ。
最初のコメントを投稿しよう!