〔1〕私たちは、世界を知ることなく解釈し語っている。

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 私たちが知ることができないものとして考えているにせよ、あるいは私たちの知るところの全体として考えられているにせよ、そのように考えている限りにおいて私たちは、それなりに『世界』を知っていることになっている。あるいは、そのように知っているのでない限り私たちは、『世界』をそのように考えることができないようになっている。「語りえぬものについては沈黙しなければならない」というが、私たちはそのような『語りえないもの』について、語りえないものとしてそれなりに語りえるようになっている。いや、語ってしまわざるをえないようになっている。そして私たちは、すでにそのように語っている。  私たちが一般に『私』だとか『世界』だとか言うとき、私たちは一般にそれを、ある一定のあり方において一つにまとまったものであるように見ており、かつそのように知っていて、またそのように語っている。少なくとも私たち自身ではそのように思っている。そのような、ある一定のあり方において一つにまとまったものとして見て知って語りうるものは、私たちの意識の対象として、そのように見られ知られ語られることになっている。  また、そのようにある一定のあり方において一つにまとまって私たちに見られ知られ語られるものを、私たちはそのまとまった状態において受け取り、以降それについてはあらためて見直すまでもなく「それ」である、というように私たち自身の意識に位置づけている。そのように位置づけられたものが一般に、『概念』だとか『表象』だとか言われるようなものだと考えられる。
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