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春が近づいてきている。まだ、寒く、人が外に出るのを億劫と感じるような冬のある日。僕はある少女と知り合う事になる。
その日は風が少しあって、海辺が目の前に広がるいつもの堤防の階段で本を読んでいると、ときどき、ページが捲れてしまうのを抑えながら、僕は一人、日向にいて、読書を楽しんでいた。
僕は常日頃から、ある理由で、人には関わらないようにしている。
例え、どんなことが起こっても、自分から関わらないようにとしてきていて、もう何年になるかわからない。自分を育ててくれていた人も今はもういなくて、僕はずっと独りで良いって思っていた。
そうして僕が独り読書をしていると、堤防の階段の下で、誰かが何かを言いながら、砂浜を駆けているのが分かった。
こんなところに珍しく人がいるものだ、と僕は思ったが、また本に目線を落とす。夕暮れ時のこんな時間に誰かがいるなんて珍しかったから、少し気になったが、そういうこともあるだろうとその時は思っていた。
すると、その人物は階段の下に止まると、
「ダメだよ! 君を連れていかれないんだよぉ!」
「ワンワン!」
どうやら、栗色のツインテールの髪の毛に、セーラー服を着た女子高生と思われる女の子が、小さな白い仔犬にそう言っているのが見えた。
そしてその女の子はまた仔犬に言う。
「もう……どうして分かってくれないの? 君のことを……連れていけないのに……うぅ……うわああああん」
言ったあと、その仔犬をその子が抱きしめて、大泣きしているのが分った。
どうやら、何かあったみたいだった。
ふと、その時だった。
僕の記憶に彼女の姿が過った。
あの彼女……。昔、僕と会ったことがある子だ。
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