17人が本棚に入れています
本棚に追加
――あれは、三年前だろうか。
僕がいつものようにここで読書をしたあと、家に帰る道すがら、いつも大事に持っている懐中時計をここに残してしまったのに気付き、慌ててここに戻ろうとしていた時に向こうから中学生くらいの女の子が必死に走って僕の方に来るのが分かった。
「はぁはぁっ、す、すいません! これ、落としていましたよ!」
「あ、あぁ。ありがとう」
「はい! 大事なものかもしれなかったから。良かったです」
その女の子は息を切らして、汗を流して本当に慌てた様子で、僕にその懐中時計を渡しに走ってきてくれたようだった。その懐中時計はとても僕には大切なものだったから、見つけてくれた安堵感が嬉しく、そのお礼をしようとした時だった。彼女は慌てて、
「じゃあ、私、急いでいるので!」
と、彼女は急いでそのまま踵を返し帰ってしまったのだ。
僕はお礼をしたかったのだが、中学生くらいの子なら、このあたりに住んでいるのだろうと、また会った時にお礼をしようと思っていた。
それからその彼女をこの町ですれ違ったりしたことは何度もあったが、その時は彼女だけではなかったので、声を掛けられずにいて、今に至る、という訳だった。
その彼女が今、僕の傍で困り果てた姿で、泣きじゃくっているのだ。
本当はこんな女の子の声を聞いたところで、自分から誰かに関わろうなんて動じるような決心ではないのに。
何故かその時はその女の子の声が気になって仕方がなかったんだ。
「うぅ……くすん、くすん」
僕が本を読んでいる階段を降りて砂浜に向かうとその彼女は震えて泣いた。
彼女は白い仔犬を抱きしめて泣いているようで、しばらく後ろから見ていた僕だったけれど、その涙する姿の彼女は、穢れなく、温かく、綺麗な涙を流していた。
「どうしたの? どうして泣いているの?」
僕が彼女に近づいて、ポケットに入れてあったハンカチを取り出して、彼女に差し出した。
すると彼女が僕に気が付いたようで、涙を流しながした。
最初のコメントを投稿しよう!