出会い

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「この仔、やっぱり一人じゃダメだわ。……そうだ! 貴方が飼ってくれない?」 「え!? いや、あの……」 「これは何かの縁なの! 貴方しかいないの! ねっ、ねっ!?」 「で、でも、僕が犬を飼うって……」  僕が困ってそこまで言うと、彼女がはっとして、 「あ……。もしかして貴方もおうちの事情で飼えなかったりするの?」 「いや、それは無いんだけど、僕一人っていうのは……」 「大丈夫! 私、毎日、この仔に会いに行くから!」  あぁ、しまった。そういう意味で言ったわけではないのに。僕が犬を飼うということは、ひとつの命に向き合うことであって……。そして僕の言葉のせいで、彼女に期待を持たせてしまった。すると彼女はぐいぐいと瞳を輝かせながら仔犬を僕に抱かせようとしてくる。  いつもの僕なら。  ここで断るのだけれども、僕の大切な懐中時計を拾ってくれた彼女だったし、彼女の一生懸命さと純粋さに気圧されてしまい、仔犬を受け取ると、 「……わかったよ」  と、僕は嘆息して、言った。  すると反して彼女はとても嬉しそうに、 「わあい! ありがとう! 私、木崎 響って云うの! ひびき、って呼んで! 貴方の名前は?」 「僕の名前は、ユーリ アインシュタイン。ユーリで良いよ」 「ユーリ! 素敵な名前ね! 良かったね、シロ!」 「シロ?」 「この仔の名前! 白いから!」 「ぷ……。そのまんまだね」 「いいじゃない! シロー! ご主人さまだよぉ!」 「ワン!」  シロと名付けられた仔犬が、僕の頬をペロっと舐めた。僕は反射的に微笑んだ。 「じゃあどこで会えるかな?」  彼女が僕に言うと、 「いつもここで僕は日が落ちるまで読書をしているから、ここに来てくれればいいよ」 「貴方、学校は? 高校生くらいでしょ?」 「……行ってないんだ」 「そうなの。わかったわ! じゃあここに授業が終わったらすぐに来るからね! うふふ、シロー。またねぇ~。ご主人さまの言う事をよく聞くんだよぉ」  彼女が僕の抱えているシロの頭を撫でると、 「じゃあ私、今日は門限がくるから帰るね! また明日!」 「う、うん。また明日」
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