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「祖父と親父が成した財を、お前は一人で食い潰そうというのか」
まだ、目の黒い祖母の朱音は豪く剣幕に私の事を捲し立てる。
私としてもそんなつもりは毛頭なく、出来れば孝行の一つでもしたいと考えているのだが、上手くいかない。
漱石先生に習い、小説家たる者になろうと考えているが、面白い話もそう浮かぶモノではない。
百草屋に注文した原稿用紙に、商船学校の友人から買った万年筆を滑らせるが、話は一向に面白くならない。
もちろん書いているのも私だから、話が面白くなるもならぬも私次第という事になる。
漱石先生は、
「小説とは人を書くモノだ。如何に君らしい人の描写を見付けるか。それを日々勉強しなさい」
と言う。
しかし、先生は「猫」を書いておられる。
「人」でなく「猫」。小説とは本当に奥の深いモノだと私は頭を抱えた。
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