壁越しのペンフレンド

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 マンションの隣の部屋に住む女性と文通している。  文通といっても小洒落たレターセットを使うようなものじゃなく、適当な紙にサラサラッと短い文章を走り書きした、手紙よりメモと言ったほうがいいようなものを相手の郵便受けに放り込む大雑把なものだ。内容も主婦の井戸端会議以上ワイドショーのトピック以下の、会って話すほどでもない些細なものが殆ど。  彼女との関係を訊かれると非常に答えづらい。一番適当なのはやはり「隣人」だろうが、普通の隣人同士なら郵便受けに用があるのは回覧板を回す時くらいだろう。  かと言って、俺達はそんなに親しいわけでもない。どころか、おそらく向こうは俺の苗字しか知らないだろう。表札には下の名前は出していない。  友達でもない、恋人でもない、けれどただの隣人と呼ぶのもしっくりこない、そんな関係だ。
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